米韓首脳会談 北非核化めぐる思惑が違う


 米国のバイデン大統領と韓国の文在寅大統領が対面では初めてとなる首脳会談を行い、外交と対話を通じ北朝鮮の完全な非核化を目指すことを確認した。北朝鮮核問題で米韓が足並みを揃(そろ)えてメッセージを出せたことは幸いだ。だが、双方には思惑の違いもあり、非核化進展につなげられるかが問われる。

米朝対話急ぐ文大統領

 会談はバイデン政権が対北政策の見直し作業を完了させた直後に行われた。見直しでは、北朝鮮の完全非核化の見返りに米国が対北制裁を解除する一括妥結方式をトップ同士の決断で行うトランプ政権のやり方や、北朝鮮が非核化措置を実行しない限り対話には応じないオバマ政権の「戦略的忍耐」とは一線を画す方針が打ち出されていた。

 これと関連し、会談後の共同声明には、バイデン政権が国連による対北制裁の履行を徹底させながら北朝鮮との外交を模索することが記され、文氏もこれを歓迎したという。

 だが、両首脳の思惑が完全に一致していたとは言い難い。バイデン氏にとっては、国際秩序を乱す横暴を繰り返す中国への圧力を強めるため、韓国からの協力を取り付けるのが会談の最優先課題であったはずだ。一方の文氏は求心力低下の中、政権浮揚へ米朝対話を復活させ、南北融和につなげることに執着している。バイデン氏に北朝鮮との対話を促し、実行に移してもらう契機とすることが最大の目的だったのではないか。

 バイデン氏にとって北朝鮮非核化はようやく政策の見直しを終えたばかりであり、何より権謀術数に長けた相手に惑わされないためにもじっくり腰を据えて取り組む問題だ。だが、文氏には時間がない。残り任期1年を切り、駆け込み的にでも米朝、南北の対話を実現させたい。思惑の違いは北朝鮮に付け入る隙を与えるだけだ。

 共同声明には、今後の対北外交について2018年の南北首脳会談での板門店宣言と米朝首脳会談でのシンガポール共同声明に基づいて北非核化を目指すことも盛り込まれた。

 しかし、板門店宣言では非核化の文言がほぼ最後の部分に盛り込まれるにとどまった。シンガポール共同声明も、米国が対北敵対政策を見直し北朝鮮に体制保証をするという内容の後にようやく非核化が登場する。

 可能な限り非核化の議論に応じたくない金正恩朝鮮労働党総書記に配慮した低姿勢には問題がある。これらに基づく対北外交は最初から北朝鮮に主導権を握られる恐れがある。

 共同声明には「台湾海峡の安定」や「クアッド(日米豪印4カ国の枠組み)の重要性」など、文政権が回避したかったはずの中国を刺激する内容が盛り込まれた。

 仮に、その見返りに重大な欠陥が指摘される板門店宣言などを盛り込むことでバイデン政権が譲歩したとすれば問題だ。北非核化を外交上の取引に使うことは断じてあってはならない。

対話重ねても北は抵抗

 国際社会は幾多の対話を重ねてもなお北朝鮮が完全非核化に抵抗してきた現実を見てきた。対話のための対話は非核化を逆に遅らせる。