インド氷河崩壊、現実となった突発洪水の教訓


 インド北部ウッタラカンド州のガンジス川上流部の支流で発生した洪水をもたらした氷河崩壊は、水源のあるヒマラヤ山脈周辺の氷河に対する地球温暖化の影響によるものとの見方が有力だ。

 気候変動がもたらす自然災害は年々深刻の度を増しており、脱炭素化など温暖化対策の取り組みは急務の課題だ。

縮小ペースが速まる

 洪水が雨期のサイクロンによってではなく、雨も雪も降っていない山間部で突然起きたことに氷河崩壊の脅威が見て取れる。避難警報を出す時間もない速さで膨大な水量の濁流が流域の村落やダムや橋を押し流し、20人以上の死者と170人以上の行方不明者を出している。

 洪水について、衛星写真では氷河湖は発見されていなかったといい、氷河の内側に溶けた水が大量にたまっていたとみられている。氷河が決壊して堰を切ったように洪水となって流れ出し、狭い谷間を津波のように襲ったと考えられる。

 近年、温暖化による氷河の縮小がもたらす自然災害の増加が懸念されている。一昨年、米科学誌「サイエンス・アドバンシス」に発表された研究者の調査では、機密解除された米偵察衛星の画像を分析したところ、ヒマラヤ山脈の約2000㌔㍍の氷河が2000~16年の間に毎年約80億㌧、厚さ45㌢のペースで溶けており、1975~2000年に比べて2倍の速さの減少だったという。

 このため、ヒマラヤの氷河の溶解によってできる氷河湖の拡大、および山間部の河川支流に突発的な洪水をもたらす可能性などが指摘されていた。川に水力発電所のダムを建設することにも洪水の危険性が及ぶと懸念されていたが、被害が現実のものとなり犠牲者の多くは建設作業員だった。

 この例は、今日の温暖化問題で警鐘が鳴らされている灼熱化や暴風雨などによる自然災害が現実に激甚化しつつあるという教訓と言えるだろう。

 氷河減少はヒマラヤに限らず深刻で、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が一昨年まとめた特別報告によれば、グリーンランドと南極の氷床は年間4000億㌧、世界の山地氷河は年間2800億㌧も失われている。

 地球上の氷河減少は太陽光の反射を弱め、温室効果を高める恐れがある。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、世界の平均気温上昇を産業革命から1・5度までに抑える取り組みを世界各国で追求するとしている。温暖化をもたらす二酸化炭素など温室効果ガスを減らす脱炭素化の政策目標を各国で実現することが極めて重要だ。

50年に温室ガスゼロを

 昨年、脱炭素社会の実現を宣言し、国際公約もした菅義偉首相は、施政方針演説でも「次世代太陽光発電、低コストの蓄電池、カーボンリサイクルなど、野心的イノベーションに挑戦する企業を、腰を据えて支援する」などと訴えた。

 欧州連合(EU)や米国などと共に掲げている50年までの温室効果ガス排出実質ゼロの目標を、世界に先んじて実現させていくべきだ。