米露条約延長、中国抜きの核軍縮は危うい


 米国とロシアは、新戦略兵器削減条約(新START)を5年間延長した。

 ただ、新STARTには核戦力を増強し続けている中国が参加していない。米国の核抑止力が低下すれば、米国の「核の傘」に頼る日本は危険にさらされることになりかねない。

 バイデン氏が予算削減か

 新STARTは2009年12月に失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継となる核軍縮条約で、米露両国ともに戦略核弾頭の配備数を1550発以下に削減することを定めている。

 しかし、中国の核戦力増強に対処することはできない。米国防総省は昨年9月に公表した年次報告書で、中国が保有する核弾頭の数を「200発台前半」と推計し、今後10年間で倍増すると分析した。

 新START延長を受け、ブリンケン米国務長官は声明で「現代化し、増加する中国の核兵器の危険性を減らすための軍備管理を追求する」と強調した。だが、中国は「中国の核兵器は米露と桁違いに少ない。米中露3カ国軍縮協議には参加しない」としている。

 トランプ前米政権は、中国が加わらない枠組みに否定的で、中距離核戦力(INF)全廃条約を19年8月に失効させた。新STARTに関しても、中国が参加しなければ実効性に乏しいと言わざるを得ない。

 問題は中国だけではない。ロシアは近年、新STARTの対象外である戦術核を軸にした核戦力の近代化に動いている。INF全廃条約に関しても違反が指摘され、失効の要因ともなった。プーチン大統領は15年3月、14年2月のウクライナ南部クリミア半島への軍事介入の際、核兵器の臨戦態勢に入る用意があったと述べている。

 ブリンケン氏は、ロシアの「すべての核兵器」を扱う軍備管理を目指すと言明。新STARTでカバーされていない最新鋭兵器なども対象にしたい考えだ。ロシアでは、最新鋭の極超音速ミサイルシステムで核搭載可能とされる「アバンガルド」や航空機搭載型の「キンジャール」も既に実戦配備されている。

 トランプ政権は18年2月に公表した「核態勢の見直し」で、爆発力の小さい低出力核弾頭(小型核)や核巡航ミサイルなど新型兵器の開発を進め、「核のない世界を目指す」としたオバマ元政権の方針からの転換を打ち出した。

 一方、バイデン大統領は巨額の核予算を削減し、新型コロナウイルス対策や経済対策などに振り向ける意向だ。さらに、核の「先制不使用」に前向きともされている。中露両国の軍事力拡大の動きを踏まえれば、懸念が残る。

 日本は国内配備検討を

 日本も中国の核戦力増強への警戒を要する。日米同盟の強化によって、米国の核抑止力を維持し、向上させていくことが欠かせない。

 これとともに、日本の核政策の見直しも求められよう。「非核三原則」のうち「持ち込ませず」を撤廃し、米国の核兵器の国内配備や核を搭載した米原子力潜水艦の寄港容認などを検討すべきだ。