米大統領外交演説 国際的な対中包囲網の構築を


 バイデン米大統領は国務省で行った外交政策演説で、中国を「最も深刻な競争相手」と断じ、「米国の繁栄や安全、民主的価値観に中国がもたらす挑戦に立ち向かう」と訴えた。

 トランプ前政権が推し進めた対中強硬路線をバイデン政権が引き継ぐかどうかは、国際社会の大きな関心事だった。同政権高官のこれまでの発言から、中国への対抗姿勢を維持するとの見方が強まっていたが、バイデン氏が自らの言葉でこれを明確にしたことは極めて重要だ。

強硬姿勢後退の懸念も

 トランプ政権が過去半世紀にわたる対中関与政策を放棄し、強硬路線に転換したことは歴史的業績と言っていい。ただ、伝統的な同盟関係を軽視し、米単独で対峙(たいじ)する形になっていたことが大きな弱みだった。

 バイデン政権に何より求められるのは、同盟国と歩調を合わせて国際的な対中包囲網を構築することだ。バイデン氏が演説で、同盟国を「米国の最高の財産」と位置付け、中国との競争で「強い立場」に立つには同盟国との協力が欠かせないと語ったのは、正しい認識である。

 ただ気掛かりなのは、バイデン政権が対中強硬路線で一枚岩なのかということだ。オバマ元政権で国務省政策企画局長の要職を務めたアン・マリー・スローター氏が、英紙フィナンシャル・タイムズへの寄稿で「大陸間競争よりも地球規模の課題を優先すべきだ」と主張したように、民主党内には気候変動や新型コロナウイルスへの対応が喫緊の課題であり、中国と対決している場合ではないと主張する勢力がある。

 バイデン政権でその筆頭格がジョン・ケリー気候問題担当特使だ。気候問題で中国から協力を引き出すために、対中強硬姿勢を後退させるのではないかとの懸念は根強い。

 オバマ政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めた対中融和派のスーザン・ライス氏は、バイデン政権で国内政策会議委員長に収まったが、「中国問題に口を出す可能性」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)が指摘されている。

 これに対し、アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)、カート・キャンベル・インド太平洋調整官は、中国との地政学的競争を最優先課題と捉えている。政権内の足並みの乱れが表面化し、中国に付け入る隙を与えないためにも、ブリンケン氏らが主導権を握り、一貫した対中政策が維持されることが望まれる。

 「LGBT外交」を憂慮

 バイデン氏の外交演説は、さまざまな課題に触れた包括的な内容だったが、憂慮すべきはLGBT(性的少数者)の国際的な権利向上を優先課題に位置付けたことだ。オバマ政権が推し進めた、いわゆる「LGBT外交」の復活である。

 オバマ政権は途上国に対し、経済援助と引き換えにLGBTの権利拡大を要求し、保守的な価値観を持つアフリカ諸国などから激しい反発を買った。米中の覇権争いが先鋭化する中で、こうした歪(ゆが)んだ価値観外交は、途上国を米国から遠ざけ、中国の陣営に追いやりかねない。