真っ二つに割れる米共和党

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

トランプ氏の言動評価に差
熱狂的支持者に権威への不信感

加瀬 みき

アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員 加瀬 みき

 アメリカの分断は先の大統領選挙でも明らかであったが、その分断は共和党と民主党の間だけではない。アメリカ全体の二極化がより鮮明に、より厳しく表れているのが共和党内である。トランプ支持者とそうでない共和党に真っ二つに割れている。

 トランプ大統領の再選はかなわなかった。しかしトランプ氏は選挙後、不正を訴え続け、トランプ氏の支持者の大多数がそれを信じ、共和党議員たちの多くも長くジョー・バイデン氏の勝利を認めなかった。共和党指導層の実力者であるミッチ・マコネル上院院内総務が、バイデン氏の勝利を認めたのは、昨年11月の選挙で選出された全米各州の選挙人による投票が行われ、選挙結果が正式に決まった12月14日の翌日であった。

議事堂乱入、内外に衝撃

 マコネル氏は同時に1月6日に新議会が行う選挙人投票結果の承認審議で異議を唱えないよう、他の共和党議員たちに忠告した。しかし、その日、ワシントンに集結したトランプ支持者たちが、トランプ氏の「不正があった」「議事堂へ行こう」との掛け声に乗って上下両院総会が行われている議事堂に乱入し、破壊行為を行い、死者も出した。その後続いた審議ではアリゾナ州に関しては上院7人、下院121人、ペンシルベニア州では上院7人と下院138人の共和党議員が選挙結果に異議を唱えた。

 議事堂乱入はアメリカの民主主義を脅かした事件として国内外に衝撃をもたらし、トランプ氏が支持者たちを扇動したか否かが問われた。トランプ氏と非常に密接であったリンゼー・グラム上院議員もさすがにトランプ氏を擁護できないと述べ、下院共和党のナンバー3のリズ・チェイニー氏は「アメリカ合衆国大統領が大統領の職および憲法への宣誓をこれほどまでに裏切ったことはない」と述べ、弾劾賛成に「良心の一票」を投じた。

 しかし、チェイニー氏他、下院で弾劾に賛同した共和党議員10人には、それぞれの地元で大変な抗議運動が起きている。すでにトランプ派のアンソニー・ブシャール州上院議員が2022年の選挙でチェイニー氏の議席を奪うと名乗りを上げている。1月15日発表のワシントン・ポストとABCの世論調査によれば、選挙でバイデン氏の勝利を認めないような不正はなかったと答えたのは62%、しかし共和党支持者だけを見ると不正があったと答えたのが66%だった。

 そもそも16年の大統領選挙時、共和党議員をはじめ党の指導層はトランプ氏が自党の大統領候補になることを認め難かった時期が続いた。しかし、ヒラリー・クリントン氏に勝利したことで、トランプ氏が草の根レベルの支持たちの心をがっちりとつかみ、その声となっていることが明らかになった。共和党議員はトランプ氏を支持しなければ、予備選で対抗馬を立てられ議席を失う状況となり、共和党全体が一気にトランプ氏になびいた。

 共和党指導層は再び議席確保のための選択を迫られている。議事堂乱入後トランプ氏から距離を置こうとしたが、共和党有権者のトランプ氏への支持は今でも非常に強く、イプソス調査によれば、57%がトランプ氏が24年の党大統領候補になるべきだと回答している。

 トランプ氏を熱狂的に支持するのは、近代化・グローバル化に取り残された怒りや、白人クリスチャンの優位が失われる恐怖だけが理由ではない。あらゆる専門家や権威への強い不信感もある。連邦政府の議員や官僚、金融・経済のプロたち、アルゴリズムを操る技術者、行動や意識分析をする学者たちなどが自分たちの自由や権限を奪い、国民を裏切ったとみなしている。トランプ氏はそうした気持ちをうまく捉え、支持者たちはトランプ氏が自分たちのために戦ってくれていると信じてきた。

消えぬ「トランプ運動」

 共和党議員、そして支持者の一部ではトランプ離れが始まったが、大多数の草の根支持者たちからみれば、チェイニー氏のような議員は許せない。トランプ氏への熱狂的支持を沸き起こした体制の矛盾や格差への解決が見えない限り「トランプ運動」は消えないだろう。解決への道は事実の否定や陰謀論、ましてや暴力ではない。アメリカ社会にのしかかる問題にどう応えるか。支持者たちの苦悩の叫びをどう汲み上げるか。国家分断を防ぎ、国民の融和を図ったリンカーンの党が試練の時を迎えている。

(かせ・みき)