米厚生長官訪台 日本も関係強化を進めよ
アザー米厚生長官が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。米閣僚による訪台は6年ぶり。アザー氏は1979年の米台断交以降、訪台した最高位の閣僚となった。米中対立が先鋭化する中、米国と台湾の接近ぶりを浮き彫りにした形だ。
蔡氏との会談で連帯示す
アザー氏は蔡氏との会談で「台湾の新型コロナウイルス対策は世界で最も成功した」と称賛。その上で「台湾の成果は、透明性、民主主義などの価値を示している」と強調した。
初動の遅れや情報隠しで新型コロナの感染拡大を招いた共産党一党独裁体制の中国を念頭に置いた発言だと言えよう。自由、基本的人権の尊重、法の支配などの普遍的価値を共有する米台の連帯を示したものとして評価したい。
アザー氏は、先月末に死去した李登輝元総統も弔問。「李元総統が残してくれた民主主義という遺産により、米台関係は永遠に前進するだろう」との追悼メッセージを書き残したという。
厚生長官は新型コロナ対策など防疫・衛生分野を担当する閣僚だが、蔡氏との会談では安全保障分野も含めた広範囲での連携強化が提起された。台湾に圧力を強める中国への牽制効果は大きい。
米国は79年1月に台湾と断交して中国と国交を樹立したが、直後に台湾関係法を制定し、台湾への武器供与を含む協力関係を維持してきた。蔡政権発足後、中国の圧力で台湾と断交する国が相次ぐ中、トランプ米政権は2018年3月、米国と台湾の高官往来を法的に裏付ける台湾旅行法を成立させた。アザー氏は同法施行後、台湾を訪問した初の米閣僚となる。
一方、中国はアザー氏の訪台に猛反発し、中国外務省の趙立堅副報道局長は「中国は米台の公式な往来に一貫して断固反対している」と強調。さらに、複数の中国軍機が台湾海峡上空の中間線を越えて台湾側に侵入する挑発を行った。
中国の習近平国家主席は「一国二制度」による中台統一を目指し、そのためには武力行使も否定しないとの考えを示している。建国の父である毛沢東もできなかった中台統一を実現すれば、習氏の求心力は飛躍的に高まるだろう。だが、このために台湾の民主主義を踏みにじることは許されない。
中国は香港への統制を強化する「香港国家安全維持法」を成立させ、香港の一国二制度を骨抜きにした。中国の領土・主権に関わる「核心的利益」と位置付ける台湾への攻勢も、今後さらに強まる恐れがある。
ポンペオ米国務長官は先月、対中政策に関する演説の中で習氏を「破綻した全体主義的イデオロギーの信奉者」だと痛烈に批判。民主主義国が連携して中国の脅威に対抗するよう呼び掛けた。日本は台湾との関係を強化すべきだ。
「交流基本法」の制定を
台湾が危機に陥れば日本への影響も極めて大きい。国内の有識者からは、日台間における政治、外交、経済、防衛などの相互交流に関する「日台交流基本法」の制定を求める声も上がっている。政府は前向きに検討する必要がある。