米民主党大会 新鮮味ないバイデン陣営政策


 米国の大統領選に向けて開幕した民主党の全国党大会は、2日目にバイデン前副大統領(77)を党候補として正式に指名し政策綱領を採択した。トランプ大統領打倒を目指すバイデン氏の選挙公約となるものだが、内容はオバマ前政権時代への回帰と左派への迎合であり、新鮮味を欠いている。

政策めぐる左派との軋轢

 新型コロナウイルス感染拡大が最も深刻な米国で、大会は感染防止対策を取りながらウィスコンシン州ミルウォーキーを拠点に全米の党組織をインターネットでつなぐ異例の形を取っている。その努力を多としたい。

 案の定、大会はトランプ氏に対する人格攻撃で火ぶたを切っている。「低俗」で「わが国にふさわしくない大統領」だとミシェル・オバマ前大統領夫人が痛烈な批判を浴びせ、共和党からも、反トランプ氏の立場からケーシック前オハイオ州知事、軍出身のパウエル元国務長官らが「バイデン氏はわれわれ皆が敬礼し誇れる大統領になるだろう」と支持を寄せた。

 しかし裏を返せば、トランプ氏でなければよいという大統領選びは、バイデン氏に対する支持が消極的であることを示している。

 民主党内の左派と中道のバイデン氏とは政策をめぐる軋轢(あつれき)がある。若手で民主社会主義を提唱する最左派のオカシオコルテス下院議員は、予備選で撤退したサンダース上院議員が党大会でバイデン氏への支持演説をしながらも、あえてサンダース氏を候補指名した。

 この党内をまとめるには、トランプ氏を再選させてよいのかとの問い掛けは好都合だろう。前回も「米国第一」を掲げて暴言を繰り返す「不動産王」トランプ氏には批判が強かったが、今回は大統領の品格を問える点で、複数の暴露本を含め民主党は攻撃材料を増やした。

 政策綱領でもトランプ氏がしたことの逆を行うだけで“バイデン色”が感じられない。「『米国第一』の章を閉じるのが最初の仕事」として、大統領就任後の初仕事が気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」への再加入とするほか、世界保健機関(WHO)再加入、イラン核合意への復帰の模索、キューバとの交流促進など、オバマ前政権時代に戻るだけだ。

 これを「米国のリーダーシップの刷新」と称しても、世界からは米国の迷走と見られるだけだろう。法人税、相続税の税率引き上げ、最低賃金の引き上げ、銀行規制強化、保険料や教育費の軽減など若年層や労働者向けに「大きな政府」を目指す方向は、大型追加減税と規制緩和を改めて打ち出したトランプ陣営との争点となろう。

 エルサレムのイスラエル首都認定、中国に対する厳しい姿勢はトランプ政権の追随にすぎない。中国をめぐっては、不公正な貿易問題への対策と共に香港や台湾の自由と民主主義を守る断固たる行動を取れるかが問われる。

 何をするのかが重要

 高齢の不安要素を抱えるが、トランプ氏を大統領にしないことを争点にするよりもバイデン氏は何をするのかが本来、重要である。