国家安全法 香港の民意恐れる中国の暴挙


 中国は全国人民代表大会で、民主派のデモが高まった香港への直接統治を強化するため、新たな「国家安全法」の適用を正式決定する見通しだ。

 返還時に英国はじめ国際社会と約束した「一国二制度」に基づき、香港に認めた高度な自治を事実上終わらせる強硬策であり、中国共産党政権による民主主義運動への一層の弾圧が懸念される。

 反政府デモが拡大、継続

 香港では昨年6月から「逃亡犯条例」改正案撤回を求める反政府デモが拡大、継続し、デモ参加者の過激化や警察側の暴力的取り締まりなどによって混乱が続いた。この過程で香港当局は多数の市民を検挙しており、治安維持のための公権力を行使し過ぎるほどしていると言っていい。

 その上、中国が新たに国家安全法を香港に適用して、中央政府直轄の監督機関を置くなど統治強化を進めることは、中国からの治安機関動員や、さまざまな口実による法執行などの実力を背景とした圧力を格段に強め、香港政府を恒久的に傀儡(かいらい)化する恐れが高い。

 2047年まで50年間の一国二制度における高度な自治も、これまで親中派に有利な選挙制度により民主派が排除されて骨抜きにされてきた。そのような中でも、昨年11月の香港区議会選挙では、反政府デモの高まりを背景に民主派が85%の議席を獲得する大躍進を遂げた。

 中国側が容疑者とした人物の中国への引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案に対し、政治弾圧の危機を感じた市民らが中学生から老人までこぞって抗議デモに参加したのは、民主主義の中に育った市民が強まる共産党政権の影響を拒絶する生理反応を示したことに外ならない。

 香港の民意は明らかだ。共産主義体制の中国は香港が見せた民意を恐れ、来る9月の立法会選挙、再来年の行政長官選挙で民主派の勝利を阻止するため、国家安全法による直接行動に出ようとしている。

 全人代では、李克強首相が政府活動報告で「香港の国家安全を守るための法制度・執行メカニズムを確立」すると演説し、親中派の林鄭月娥行政長官は一国二制度に基づく自治を主張するどころか、香港政府が頭越しにされているにもかかわらず「香港の一国二制度と司法の独立に影響はない」と擁護した。昨年の大規模デモの要求の一つが林鄭氏辞任であったように、支持は失われている。

 しかし、林鄭氏の残る2年の任期中に中国は香港の統治強化を急ぐ構えで、4月に民主派幹部を一斉検挙している。また、香港駐留の中国人民解放軍司令官が国家安全法について「分裂勢力を震え上がらせる」と中国メディアに語るなど、軍によるデモ鎮圧の暴挙もあり得る。

 対中関係の見直しを

 国家安全法に対して国際社会は強い憂慮を示しており、米国のトランプ政権は近く、対中制裁など強力な対応を発表する方向だ。

 武漢で発生した新型コロナウイルスの感染拡大の教訓もあり、民主主義諸国をはじめとする国際社会は対中関係を見直していく必要があろう。