北の核戦力強化、変わらぬ脅威に警戒怠るな
北朝鮮で軍事政策をめぐる最高意思決定機関である朝鮮労働党中央軍事委員会の拡大会議が開かれ、「核戦争抑止力の強化」などが打ち出された。国内経済を逼迫させる経済制裁や新型コロナウイルスの感染拡大などに見舞われながらも、核戦力に依存した体制維持の方針に何ら変わりはないようだ。日本をはじめ周辺国は引き続き警戒を怠ってはなるまい。
ミサイル功労者が昇進
会議では「核戦争抑止力を一層強化させるための新しい方針」が示された。北朝鮮が核戦力保持の意思を表明するのは昨年12月に開かれた同会議以来のことで、一貫して核・ミサイル開発を重視してきたことをうかがわせる。
北朝鮮としては米国に対する核攻撃能力を誇示してトランプ大統領との非核化交渉を再開させ、制裁解除に結び付けるのが目標だろう。だが、今は11月の大統領選での再選に向けトランプ氏が北朝鮮と向き合う余裕はない。核戦力強化を鮮明にさせたのは内部を引き締める狙いもあったとみられる。
会議では弾道ミサイル開発で功労があった軍幹部の昇進も発表された。開発を主導してきた李炳哲党副委員長が中央軍事委の副委員長に選出され、短距離弾道ミサイルの発射で功績を挙げた朴正天軍総参謀長の階級が大将から次帥に昇格した。こうした人事は核・ミサイル開発に拍車を掛ける恐れがある。
この会議は金正恩党委員長を迎えて行われた。正恩氏は今月初めに20日ぶりに公の場に姿を現して以降、再び動静が途絶えていた。意図的に国際社会の関心を引き、核戦力強化という強硬路線をよりインパクトのある形で伝える効果を狙った可能性もある。
一部では、今回の会議で言及された「戦略武力」などが新型の潜水艦発射弾道ミサイルを指すのではないかとする見方もある。日本海沿いの造船所で新型潜水艦の進水に向けた準備が行われているとの見方が韓国の国会で報告された。こうした動きにも要注意だ。
会議では「砲兵の火力打撃能力を高める措置」も取られたという。これは北朝鮮が3月、立て続けに発射した短距離弾道ミサイルと関係しているようだ。核や大陸間弾道ミサイル(ICBM)に比べ性能アップが疎かになっていた在来式兵器にも力を注ぎ始めた可能性が指摘されている。韓国との局地戦を想定した動きだろう。
だが、対北融和路線を敷く文在寅政権は軍事境界線付近の相互軍事力削減などで北朝鮮と合意した。局地的な武力挑発に断固たる態度で臨めるか疑問だ。北朝鮮の挑発はそれ自体が合意違反となり、非難すべき対象だが、韓国軍首脳が政権の顔色を見て北朝鮮への抗議を自制してしまうのではないか心配だ。
急がれる迎撃態勢強化
今年の防衛白書の素案には北朝鮮の脅威と関連し、核搭載の弾道ミサイル攻撃や防衛網を突破する低空飛行の短距離弾道ミサイルなどへの備えが課題として挙げられている。陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備など迎撃態勢の強化が急がれる。