全人代開幕、中国の覇権主義に警戒強めよ
新型コロナウイルスの感染拡大を受け延期されていた中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が、2カ月半遅れで開幕した。全人代では2020年国防予算を前年比6・6%増の1兆2680億500万元(約19兆2000億円)とする方針が発表された。
世界的な感染拡大が続く中でも、中国の軍拡路線に変化は見られない。警戒を強めなければならない。
国防費は日本の3・6倍
今年は感染拡大による経済の悪化で、国防予算が減額されるとの見方も出ていた。しかし、伸び率は前年の7・5%を下回ったものの、プラスを維持。額は過去最高を更新し、日本の20年度防衛予算(5兆3133億円)の3・6倍に上る。
中国経済の傷は深く、全人代では今年の経済成長目標も公表できなかった。こうした中、国防予算を約1兆1000億円も増やすのは明らかにバランスを欠いていると言えよう。
中国の軍事費は過去10年で倍増し、米国に次ぐ世界2位。海軍を中心に装備を急速に充実させており、昨年12月には初の国産空母「山東」が就役して「遼寧」との2隻体制となった。3隻目の空母も建造中だ。
南シナ海で国際法違反である軍事拠点化を進め、習近平国家主席が台湾統一に向け武力行使も辞さない方針を示すなど、中国の覇権主義的な動きは目に余る。沖縄県・尖閣諸島沖の日本領海でも今月、中国公船が日本漁船を追尾する事案が発生した。軍拡によって、こうした動きを強めることは許されない。
米国への対抗姿勢も露骨に示している。昨年10月には、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風41」を軍事パレードで初めて公開。米ハワイの攻撃も可能な最新鋭ステルス戦略爆撃機「H20」を開発中だ。核戦力増強も急いでいる。米国への攻撃力向上は、同盟国の日本にとっても大きな脅威となる。日米は中国に対する警戒を強める必要がある。
このほか全人代では、香港に適用する新たな「国家安全法」に関する審議が始まった。国家分裂や政権転覆をたくらむ行為を禁じる内容だが、香港の「一国二制度」を形骸化させるものだと断じざるを得ない。
昨年6月に本格化した反政府デモを抑え込む狙いだろう。香港では原則として中国本土で制定された法律がそのまま適用されることはないが、習政権は今回、香港の憲法に当たる「基本法」の例外規定を用いて強行導入を図る構えだ。強引な手法で香港の民主主義を踏みにじるつもりなのか。
コロナ調査の早期実施を
中国湖北省武漢市から広がった新型コロナ禍に関して、李克強首相は「湖北と武漢を守る戦いに勝利し、決定的な成果を挙げた」と強調した。しかし、世界では感染拡大が続いている。中国でも5月に入って吉林省で集団感染が発生した。
世界保健機関(WHO)年次総会では、国際社会の対応を検証する「公平、独立、包括的」な調査をテドロス事務局長に求める決議が採択された。初動の遅れが指摘される中国は、調査の早期実施に全面協力すべきだ。