ミャンマー反政府勢力はなぜ油送管を襲わないのか

400 ベンガル湾に面したミャンマーのチャオピューと中国雲南省を結ぶパイプラインが昨年夏から、稼働を始めた。中国の最大の狙いはマラッカリスクの回避だ。

 マラッカ海峡は狭いところは幅がわずか2・7㌔。有事になれば、簡単に封鎖される懸念の高い戦略的要衝の地だ。これまで中東やアフリカから運ぶ原油のほぼすべてが、このマラッカ海峡経由の輸送ルートに依存してきた中国とすれば、何としても第2、第3のルートを確保し、エネルギー安全保障を担保する課題があった。

 ちなみにパイプラインが施設されたミャンマーのマンダレー、ラッショー、ムセを経由した昆明へのルートは、第2次世界大戦時の援蒋ルートと重なっている。

 援蒋ルートとは国民党政府を支援するための補給ルートをいう。1937年、日本軍の上海攻撃に始まり南京も陥落、蒋介石率いる国民党は政府を重慶に移したことで、米軍は支援物資を重慶に運ぶ必要があった。結局、米軍はミャンマーの首都ラングーンからトラックと列車でラッショーまで運んだ。さらにラッショーからムセ経由で昆明まで輸送道路を建設、補給体制を整備したのが援蒋ルートだ。

 この道路は20万人の中国人労働者がシャベルや素手で丘や山を掘り進み、少なくとも2000人が死亡したとされる難工事だった。

 その意味では、ミャンマー経由のパイプラインは習近平氏率いる中国共産党政権を支える意味で「21世紀の援習ルート」と言えなくもない。

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住民の3人に1人は中国系住民で占められているラッショー

 だがこのパイプラインは、反政府武装勢力の支配地域に近接した場所をも通過する。反政府武装勢力がパイプラインを攻撃すれば、ミャンマー政府のメンツを潰すだけでなく経済的にも大きな損失を与えることができる。だが、なぜか動く気配が全くない。

 その疑問を解消してくれたのは、ラッショーの英語教師・キョウゾーウイン氏(41)だった。

 「カチン族やワ族の最大の支援者は中国だ。彼らは中国の支援なしに自分たちのテリトリーを維持することさえも難しい。対空ロケットランチャーや地雷、ライフル、小火器といった武器も中国人民解放軍から手に入れたものだ。反政府武装少数民族といえども、中国を怒らせて墓穴を掘るようなまねはできない」というのだ。

 中国はこれまでミャンマーの少数民族武装勢力が支配する地域を、便利な緩衝地帯としてきた経緯がある。中国としてはミャンマー政府との太いパイプを構築しつつ、同時並行的に反政府武装少数民族との関係強化に矛盾がないかのように振る舞っている。

 なお同氏は「中国への警戒心を緩めてはならない」と強調する。

 彼によると、ラッショーの人口2万9000人のうち、35%の1万人余が中国系で占められている。しかも、中国系住民の7割がニセの証明書でミャンマー国籍を取得しているという。その手法は役人に袖の下を渡してミャンマー人の法的地位を手に入れたり、死去したミャンマー人になりすますなどいろいろのケースがあるという。

(池永達夫、写真も)