イスラム教の聖典解釈、「文字通り」は危険はらむ

2016 世界はどう動く-識者に聞く(12)

聖公会中東・北アフリカ総主教
ムニール・ハンナ・アニス師(上)

イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」によるテロが吹き荒れている。背景には、イスラム過激派思想があることが明らかになってきたが、この状況をキリスト教指導者の立場からどのように考えているのか。聖公会(英国国教会)の中東・北および東アフリカの責任者ムニール・ハンナ・アニス総主教に聞いた。(聞き手=カイロ・鈴木眞吉)

イスラム教は今、ISなどイスラム過激派組織のテロ活動のため、国際社会でも、イスラム教徒批判が増大している。彼らは、イスラム教の聖典コーランだけを信じ、教育し、イスラム法を厳密に適用しようとしている。

ムニール・ハンナ・アニス師

 ムニール・ハンナ・アニス 1950年、エジプト・モノフェイヤ県生まれ。カイロ大学医学部卒、外科医。オーストラリア・シドニーのムーア神学校で神学修了。1998年、聖職受任。2000年5月、聖職就任。エジプトとエルサレム、中東、北アフリカ、東アフリカの聖公会総主教。結婚して2人の息子。

 私は、テロリストは、コーランや(預言者ムハンマドの言行録)ハディースの言葉を、誤って解釈していると思う。彼らは、幾つかの言葉、例えば、書かれている“戦い”の言葉を、文脈の外に取り出しているのだ。私がイスラム教徒の友人から聞いたところによると、それらの言葉は、彼らが(メッカと並ぶ聖地)メディナでの戦いを始める時に、戦いを肯定しイスラム教徒が彼ら自身や彼らの信仰を守るための言葉だったという。

 私の友人で、(イスラム教スンニ派権威)アズハルの指導者は、「穏健なイスラム教徒は、(コーランやハディースの)言葉を誤って解釈し、テロを正当化する言葉のように見せ掛けているテロリストを批判している」と言っている。

 もう一つの問題は、少数の過激派イスラム教徒が取り出すコーランの言葉やハディースの言葉は、1000年以上も前に書かれたもので、その言葉を21世紀の今日の状況に適用しようとする困難さにある。私は、イスラムを教える指導者らが、現代の観点から、現代に適用されるように、新たな意味や解釈を試みていることを理解している。

中東地域のキリスト教徒が迫害され、攻撃されて、他の諸国に移動、中東におけるキリスト教人口が減少している。

 キリスト教信仰においても、約500年前、ピューリタンと呼ばれるグループの人々が、教会や会堂の窓ガラスを割ったりしたのだ。彼らは、旧約聖書に書かれたことに従い、こういう像や絵を持ってはならないなどと主張したのだ。だから、聖典を文字通りに解釈することは、全ての宗教において危険なのだ。

 テロリストはイスラムとの関係を持っているのではなく、彼らは少数のイスラム教徒と関係を持っているだけなのだ。イスラム指導者は、テロリズムは宗教ではない、と言う。テロリストはヒンズー教徒の中にも、ユダヤ教徒の中にもいる。日本でも、電車の中に毒ガスを撒(ま)いた人々がいた。私は、平和を愛するイスラム教徒の友人をたくさん持っている。彼らは良い友人だ。だから、「全てのイスラム教徒はテロリストである」と考えることはとても危険なのだ。