菅官房長官vs東京新聞記者

弄ばれる「報道の自由」 フリーランスの権利侵害

政治ジャーナリスト 安積明子

 「報道の自由」が弄ばれている。きっかけは昨年12月28日に官邸報道室が内閣記者会に申し入れた一枚の紙。沖縄県・辺野古基地移設工事に関する東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者の質問を「事実誤認」とし、内閣記者会に問題意識の共有を求めるものだった。

安積明子氏

 あづみ・あきこ 兵庫県出身。慶應義塾大学経済学部卒。1994年に国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、参議院議員の政策担当秘書を務めて執筆業へ。テレビ・ラジオに出演のほか、ニコニコ動画で「あづみの永田町チャンネル」を配信。2017年東洋経済オンライン年間MVP受賞。

 これに新聞労連が反応して2月5日に批判声明を出し、問題が大きくなった。望月記者は新聞労連の加盟労組の組合員ではないが、南彰委員長(朝日新聞)が「報道の自由の侵害」として騒いだからだ。南委員長は望月記者と共著もあり、委員長就任前には官房長官会見にも望月記者と参加。会見前に2人が「打ち合わせ」しているかのように話しているのを見かけたこともある。

 そもそも東京新聞は内閣記者会に政治部記者を常駐させているにもかかわらず、社会部の望月記者が官房長官会見に来るのは何のためか。何らかの記事を書くためなのか。だが彼女の記事を見るのは稀で、彼女の質問が他社の記事になったことは筆者が知る限りゼロだ。

 だが望月記者は官房長官会見に参加することで書籍を出版し、講演依頼も増えた。理由は望月記者が質問すると、菅長官が嫌な顔をするからだ。それを面白おかしく話すことで、反権力勢力にひっぱりだこになった。菅長官に嫌がられれば嫌がられるほど、望月記者にとっては美味しい結果になるという展開だ。

菅義偉官房長官

記者会見する菅義偉官房長官=2月27日午後、首相官邸

 今回も「報道の自由の危機」などと大仰に騒ぐが、望月記者は官房長官会見で質問できなくなったわけではない。官邸報道室の「申し入れ」の中にも、「何らかの条件や制限を設けること等を意図していない」との明記がある。要するにリスクなく騒げば騒ぐほど存在感が高まるだけで、それが分かっているからこそ、いっそう騒ぐことができるわけだ。

 それに騙された学者やメディア関係団体が、新聞労連に脊髄反射で追従した。「反権力なら正しい」という安易な判断があるのだろうが、実態を見ていないのがまるわかりだ。

 新聞労連は3月14日夜、官邸前で抗議集会を開いたが、肝心の政治部記者は参加しなかった。もっとも新聞記者ならばまずは紙面で勝負すべきで、デモを煽ることは記者の本業ではない。なお留意すべきがもう一つ。南委員長が初めてフリーランスとの「共闘」を呼びかけたことだ。南委員長がかつて会見開放に非協力だったことを知らないフリーランスはまずいない。

 そもそも今回の「官邸VS東京新聞」騒動は「報道の自由」とは全く関係ない。報道の自由は国民の知る権利に資するものでなければならないが、望月記者の質問はこれに資するものではない。むしろ望月記者の出現で、週に一度しか会見に参加できないフリーランスの権利を侵害している側面がある。こうした背景について11日発売の「『記者会見』の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)で詳述した。ご一読いただければ幸いだ。