要廃棄は核のみにあらず

 6月12日にシンガポールで開催されたトランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談は、大きな成果を得られないまま終わった。私は、当初からあまり期待していなかったが…。

 トランプ大統領が、金委員長に最低限約束させるべきは、北朝鮮が保有している核兵器について「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)」だったはずだ。しかし、会談後の共同声明では、金委員長は「朝鮮半島の完全な非核化」を表明するに留(とど)めただけだ。

 今回の米朝首脳会談を受けて、「朝鮮半島の完全な非核化」が前進する保証は全くない。なぜなら、北朝鮮は過去にも「朝鮮半島の検証可能な非核化」のため、「すべての核兵器と核兵器計画の放棄」を約束した。だが、平然と反故(ほご)にして核開発を進めてきたからだ。

 「一度あることは二度ある」という故事があるが、今回も最後は同じ結果に終わるのでないかと思うのは、私だけではあるまい。

 さらに言えば、北朝鮮が保有している大量破壊兵器(一度に大量の人間を無差別・破壊的に殺傷する能力のある兵器)は、核兵器だけではない。

 仮に北朝鮮が完全に核兵器を放棄したとしても、北朝鮮は複数の化学工場で生産した神経性、水泡性、血液性、嘔吐(おうと)性、催涙性等、有毒作用剤を複数の施設に分散貯蔵し、炭疽(たんそ)菌、天然痘、コレラ等の生物兵器を自力で培養および生産できる能力を保有している(韓国国防白書)。

 米科学者連盟(FAS)は、北朝鮮は一定量の毒素やウイルス、細菌兵器の菌を生産できる能力を持ち、化学兵器(サリンや金委員長の兄・正男氏の暗殺に使われたVXガスなど)についても、開発プログラムは成熟しており、かなり大量の備蓄をしていると見ている。

 生物・化学兵器は、安価に製造できることから「貧者の核兵器」とも呼ばれている。国際社会は、核兵器だけでなく、生物・化学兵器についても、北朝鮮に廃棄を迫るべきだ。

(濱口和久)