憲法に「緊急事態対処規定」を
「新しい憲法をつくる国民大会」講話要旨
新しい憲法をつくる国民会議会長 清原淳平氏
新しい憲法をつくる国民会議の清原淳平会長は、憲法記念日の5月3日、第47回「新しい憲法をつくる国民大会」で講話をし、「大災害地を早期救援すべく、与野党協力して『国家緊急事態対処規定』を憲法に新設すべきだ」などと訴えた。以下は講話の要旨。
国家は平時ばかりではない/与野党協力し非常時に備えよ
戦後、60回以上も改正したドイツ
大震災が発生した時の国家の対応について、今の日本国憲法には大きな欠陥がある。例えば、5年前の東北大震災の年に開催したこの憲法大会において、「先進諸外国の憲法では、大震災などの大自然災害が発生した場合には、それに対処する規定、すなわち、“国家緊急事態対処規定”があるのに、いまの日本国憲法にはそうした規定がない」ことを指摘し、憲法を改正してそうした災害時の緊急事態対処規定を設けるべきだ、と提唱した。
ところが、この主張が入れられないままに、本年この4月14日から、熊本県を中心とする九州で、震度7、震度6といった大震災を含め、身体に感じる地震だけで、すでに千数百回もの地震が起き現在も続いている。
国家は、平常時ばかりではなく、非常事態・緊急事態が発生する場合がある。
それには、大別して、次のような態様がある。
イ、自然大災害――大地震・大津波・大噴火・大竜巻・大台風・山林大火災など。
ロ、人為的・人工的大災害――化学工場の大爆発、原発の大事故、航空機の市街地墜落。
ハ、国内動乱――日本では考えられないが、外国では、内乱、革命、政権の暴力奪取。
ニ、外国からの侵略――外国軍隊の侵入、ミサイルの打ち込みなど。
ホ、国籍不明勢力による大テロ――いわゆる「IS」などによるテロ攻撃など。
右の場合は、いずれも国家として、非常事態であり、緊急事態である。そのうち、イロハは自然災害も含め国内発生の緊急事態である。これに対して、ニとホは、国外からの攻撃なので、国外発生的な緊急事態である。しかし、これは、本来、安全保障問題だ。また、この場合、同盟国・友好国との関係では集団的自衛権の問題にもなる。なお、このイロハニホを同じく緊急事態とする考え方もあるが、当団体の改憲案では、国内発生的な緊急事態と安全保障事態は、性格・対処が異なると考えるので、もし、この問題で憲法改正をする場合には、その条文は別々に規定することにしている。
ここでは、国内発生的大災害のなかでも、大地震・大津波・大噴火・大台風といった自然大災害を想定して説明したい。
一般に諸外国憲法は、自然大災害など緊急事態に、どのような規定を定めているのか。まずはその国のトップないし政府が、国家緊急事態発生を認定・宣言することがある。
自然災害が発生した場合、トップないし政府が、急ぎ情報を集め、その被害の大きさ、救済の必要規模などから、地方政府に任せておいてよいか、地方行政も大被害を受けているなど、国家が乗り出すべきだと判断した場合には、直ちに「国家緊急事態が発生した」旨を宣言する。(ロシア憲法第88条、韓国憲法第76条①など)。
なお、アメリカ憲法には、緊急事態宣言については、明文の規定はないが、ハリケーンや大竜巻や山林大火災などが発生した場合、それが、各州に跨(また)がる場合ばかりではなく、一州であっても、その被害が大きい場合は、大統領の権限として「国家緊急事態宣言」をする。すると、被害地の州兵ばかりではなく、合衆国軍も救助に動員できる。
次に、誰がその国家緊急事態対処の総指揮をとるかの規定がある。例えば、アメリカ合衆国憲法第2条大統領の第2節〔大統領の権限〕の中に、「大統領は、合衆国の陸海軍および現に招集されて合衆国の軍務に服している各州の民兵の総指揮官である」との規定がある。
第三に「緊急財政処分」の規定を置いている。大震災などにより、大きな被害が発生した場合、その救援・救済のため、すぐに大きな資金が必要となる。この「緊急財政処分」の規定があれば、国会の事後承認は当然として、国庫(予備費など)からすぐ資金が出せるからだ。日本のように、自然災害が多い国では、本来、かなり高額な予算を「災害対策費」として、取り分けておくべきである。
大日本帝国憲法に「緊急財政処分」の規定があったので、関東大震災に対処できたことも忘れてはならない。
大正12年9月1日、関東大震災が発生した。その際、時の政府(山本権兵衛首相)はすぐ対応した。それは、大日本帝国憲法第6章「会計」の章の中に、予備費の規定のほか、緊急財政処分の規定があったからだ。
ところが、今の日本国憲法には、先進諸外国の憲法にあり、またいわゆる明治憲法にもあった「国家緊急事態対処規定」がない。
今回の熊本を中心とする活断層地震に際しては、安倍総理がいち早く自衛隊を現地へ派遣するなど、よく対処したと思う。しかし、報道の中には、安倍総理の「激甚災害」の宣言が遅いとか、救援対策が遅いとか、国がなかなか救済資金を出してくれない、などの批判が出ている。
その原因は、時の総理にあるのではなく、日本国憲法の中に「国家緊急事態対処規定」がないことに原因があると考えている。
近年は特に、大震災が頻発し、さらに、東南海大震災、関東大震災、あるいは火山の噴火が言われているが、東日本大震災にせよ熊本大震災にせよ、ほとんど予想されていなかったものだ。
したがって、国民も、この問題は、自分のこととして、真剣に考えてもらいたい。そして、与野党が協力し今の日本国憲法に、緊急事態対処規定を設けてもらいたい。
その内容は、次のようなものだ。
①大震災・大津波・大噴火など自然災害が発生した場合に、内閣総理大臣は、閣議を招集し、情報を分析して、国家が対応すべきと判断した時は、国家緊急事態を宣言する。
②その場合の対処については、内閣総理大臣を総指揮者とする。内閣総理大臣は、国民救済のため、自衛隊を派遣することができる。なお、内閣総理大臣は、担当国務大臣を指名し、直接の指揮をとらせることができる。
③内閣総理大臣は、被災地を迅速に救援・救済するため、災害対策費、予備費などから、「緊急財政処分」として資金を拠出することができる。ただし、事後に、国会の承認を求めなければならない。
日本と同じく、第2次世界大戦で敗戦したドイツも、連合国軍の占領下で、憲法改正を迫られ、結局、占領下であることを理由に「基本法」との名称で制定した。その後、日本より2年遅れで独立を認められると、その占領下「基本法」を、独立国にふさわしくどんどん改正して、現在までに60回も改正している。また、ドイツも、占領下では、日本と同様、非常事態対処規定は認められていなかった。被占領下では、そうした非常事態が発生してもそれに対処するのは占領している連合軍の役割だからだ。
しかし、ドイツは、独立を許されると、自国のことは自国で対処すべきだとして、1969年、昭和44年に、その基本法を改正して、非常事態対処規定を設けた。日本も、そうしたドイツを見習って、日本国憲法の中に国家緊急事態対処規定を設けようではないか。