労働法改正法案をめぐる抗議活動に頭痛めるフランス
労働法改正案めぐり大荒れ
 フランス政府が提出した労働法改正法案をめぐって、全国規模の抗議行動が繰り返されている。一部精油所の閉鎖によるガソリン不足、原発施設の稼働停止による電力不足、高速道路の封鎖による物流マヒなど、国民生活に影響が出ている。一方、豪雨による洪水被害が拡大しており、フランスは大荒れ状態だ。
(安部雅信)
週労働35時間制骨抜き 企業側は社員解雇しやすく
「壊し屋」の暴力行為も深刻
フランス政府は経済低迷を抜け出し、雇用を拡大する切り札として、今年2月、労働法改正案を明らかにした。被雇用者寄りとされる現行の労働法が企業活動を制限しているとして改正を行うもので、オランド左派政権内の一部左派議員や労組が猛烈に反対している。
3月初旬の閣議決定前や4月の議会審議入り前には、全国で大規模な抗議行動が行われ、その後も労組側は、政府が法案を取り下げるまでデモやストライキを継続するとしている。現在フランスは、豪雨による洪水被害が拡大しているが、フランス国鉄(SNCF)はストの続行を決めた。
改正案には、1999年に定められた週35時間労働制を柔軟化し、労使が合意すれば、最長で週46時間(年間最大16週間)まで働く時間を増やすことを可能にし、さらに雇用者側の従業員の解雇理由を柔軟にする企業寄りの内容が盛り込まれている。
反発する各労組は、現行の週35時間制が骨抜きにされ、過剰労働が強いられると反発している。また、現在、解雇理由として認められているのは、雇用者側の収益悪化によるものとされるが、その条件は厳しく、いったん正社員として雇うと雇用調整が難しいという問題を変更しようとしている。結果、雇用者側は解雇しやすくなる。
労組は、一度勝ち取った労働者の権利は絶対に手放さないとして強く反発しているが、政府は雇用に柔軟性が持たされれば、雇用拡大につながると主張している。世論調査では、国民の56%が改正案を支持しているが、労組の反発は予想以上に強い。
現在、SNCFがストを決行し、高速列車TGVなどの運行がマヒ状態で、5月上旬には、全国にある精油所の入り口が組合員によって閉鎖されたため、ガソリンスタンドへの供給ができなくなり、全国でガソリンスタンドの前に長蛇の列ができた。
さらに各地の高速道路で、トラック運転手組合などの大型トラックが道路を封鎖したため、食品などの日用品をはじめとする物資の輸送が困難になり、日常生活に大きな影響を与えている。そのため、抗議行動の長期化に反発する市民が各地で組合員と衝突する騒ぎも起きている。
バルス仏首相は、改正案の修正には応じても、法案を取り下げることはしないことを明言している。10%台の失業率を引き下げることを公約に掲げるオランド左派政権は、公約を実現できず、大統領の支持率も歴代最低水準にある。来年の大統領選挙までに失業者数を減らすには、労働法改正しかないとの姿勢だが、予想以上の強い反発に困惑している。
一方、3月以降、頻繁に行われる抗議デモがエスカレートし、警官や機動隊との衝突が激化している。原因の一つは、治安部隊がデモ参加者に対して催涙ガス発射、なぐる、蹴るなどしている動画がインターネット上に意図的に流され、「警察は皆嫌われている」というスローガンを、デモの際に叫ぶようになったことも一因している。
3月末には、デモに参加したパリの高校生が身柄を拘束され、警官に腹部をなぐられている映像がネット上に流され、200万回以上再生された。翌日にはパリ19区の警察署を若者グループが襲撃し、スコップで窓ガラスを叩き割るなどの騒ぎを起こした。
5月18日には、警官2人が乗車したパトカーが、暴徒に取り囲まれ、割られたリアウインドーから火炎瓶が投げ込まれ、パトカーが全焼する事件が起きた。車から脱出した警官は暴徒からさらに鉄棒などで殴られ、負傷した。同日、パリなど全国の大都市で、警察官組合が警察への嫌悪を広める行為に対抗してデモを行っている。
デモの暴徒化には、デモ隊に紛れ込む通称、壊し屋と呼ばれる暴力集団の存在がある。彼らはデモ行進に加わりながら商店やバス停などの破壊行為、車への放火などを繰り返し、商店から高級品を略奪したりしている。
彼らはパリ、ナント、マルセイユ、レンヌなど大都市の抗議デモに参加し、がれきや金属棒で警官をなぐるといった暴行を行い、5月半ばの内務省発表によると、3月初め以降、819人が逮捕され、51人が有罪判決を受けたとしている。
警察当局によると、暴徒化する彼らの正体は、デモに乗じて単に破壊行為を行うグループだけでなく、アナキスト、施設の建設や撤収などに反対して場所を占拠する活動家、反グローバル化運動活動家などさまざまとしている。彼らは覆面や催涙弾よけのゴーグルを装着し、凶器をあらかじめ隠しておくなど用意周到な者もいる。
当局は労組の抗議デモを許可する場合、デモ隊が暴徒化しないよう監視員の配置を要請しているが、暴徒たちは監視員に対しても暴力行為を行っており、制御できない状況だ。ただ、昨年11月に発生した133人犠牲となった過激派によるテロ以降、現在も非常事態宣言下にあり、本来、集会などは禁じられているが、実際には行われている。
フランスは現在、豪雨による洪水被害が拡大しており、パリのセーヌ川も危険水位に達しており、ルーブルやオルセー美術館は閉鎖されている。また、一部地下鉄駅なども閉鎖され、浸水家屋も増えており、フランスは大荒れの状態だ。











