平和国家構築への必須条件
憲法改正 ここが焦点(2)
静岡県立大特任教授 小川和久氏(下)
護憲派は、日本がずっと戦争することなく平和国家でいられたのは現行憲法のおかげだというが。
そんなことはない。日米同盟を選択した結果だ。戦後、米国の同盟国で攻撃された国はない。だから、集団的自衛権行使を容認すると抑止力が高まるというのは、そこから説明しないといけない。ただし、ベトナム戦争や朝鮮戦争は内戦だから含めない。1982年のフォークランド紛争は、NATO(北大西洋条約機構)の域外だからアルゼンチンがイギリスの領土を攻撃したもので、これは例外だ。米国が集団的自衛権を行使できないと分かった上でやったわけだから。これ以外で米国の同盟国が攻撃されたケースはない。
これは米国が怖いからではなく、米国と主要な同盟国は、それぞれいろいろな同盟関係や友好協力関係を持っている。だから、その国の一つを攻撃する場合、全世界を敵に回すほどの覚悟が必要になる。それほどの覚悟を持っている国はない。
1989年以来、国家が安全を保ち、外交力を備えるために必要な条件を明示した「平和国家モデル」を小川さんは提唱しているが。
平和国家がなすべきことを提案したもので、一番重要なのが「信頼関係の醸成」。日本に当てはめれば、平和憲法の制定、歴史認識に基づく戦後処理などが条件になる。
歴史認識に基づく戦後処理では、謝罪外交を断ち切れていないという事実からも、日本が周辺国との信頼関係を構築していないということがいえる。日本人は外交が苦手で小手先でごまかそうとする。
今、安倍外交がうまくいっているのはそこを乗り越えているからだ。慰安婦問題では、第1次安倍内閣のときは役人が作成した言い訳ばかりだったから、海外では誰も耳を貸さなかった。しかし、第2次内閣では学習し、女性の人権問題という枠組みでくくり、二度と悲劇が起きないよう先頭に立って行動するという見解を出したから、韓国の朴槿恵大統領との間で「最終的かつ不可逆的な解決」との認識で合意が得られた。米国のヒラリー・クリントンも「あなたは同志だ」という手紙を送ってきた。
そして、平和憲法の制定が必要だとしている。
平和憲法の制定でも、憲法改正でもいい。「これは日本国が持つ平和憲法です」と、世界に堂々と示すことができる憲法をつくるという意味だ。
憲法改正では、どういう中身にしたらいいと考えるか。
とっかかりは96条でもいいし、いろいろやり方がある。ただ憲法改正イコール9条の改正だという議論には終止符を打ちたい。
というのは、日本国憲法というのはプロトタイプ(原型)だ。理念と骨組みしかない憲法だといっても言い過ぎではない。どんなに立派な理念を戴(いただ)いていても、改正あるいはそれに類する営みを不断に続ける中で理念も実現する、肉付けもできるわけだ。肉付けされていないで、理念だけだと何を言っても通用しない。
基本的人権でも、男女平等でも、憲法の条文を練っていかないとだめだ。「なぜ女子学生だけが就職氷河期なのか。憲法違反じゃないか」と言われたら、「そうですね」となる。男女平等じゃない。そういう部分もきちんと整理しながら、9条もという話が一番落ち着くと思う。
(聞き手=政治部・小松勝彦)






