【社説】日米首脳会談 核抑止力の向上も重要課題


バイデン米大統領(画面内)とのテレビ会談に臨む岸田文雄首相21日夜、首相官邸(内閣広報室提供)

 岸田文雄首相がバイデン米大統領とテレビ会議形式で会談し、日米同盟の抑止力、対処力の強化で一致するとともに、軍事的圧力を強める中国を念頭に台湾海峡の平和と安定の重要性を確認した。中国が武力による台湾統一を排除しない姿勢を示す中、日米の連携強化は中国を牽制(けんせい)する上で重要である。

 経済版2プラス2新設へ

 会談では中国のほか、核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射の再開を示唆した北朝鮮への対応をめぐって連携を深めることを確認。緊迫するウクライナ情勢についても、ロシアによる侵攻を抑止するため緊密に対応することで一致した。

 注目を集めたのは、国際経済秩序に挑戦する中国の脅威に備える経済安全保障の観点から、外務・経済担当閣僚による「日米経済政策協議委員会」(経済版2プラス2)の新設で合意したことだ。サプライチェーン(供給網)強化やインフラ投資などの協力を想定している。

 バイデン氏が中国への対抗策として提唱する「インド太平洋の新たな経済枠組み」構想の実現に向けて戦略を練る場にも位置付けられるという。ただ、こうした戦略を進めるのであれば、米国はまず、中国が加入を申請した環太平洋連携協定(TPP)への復帰を急ぐべきだ。対中包囲網を固めるため、日米豪印4カ国「クアッド」首脳会談を今年前半に日本で開催することでも一致した。

 今回、首相は持論の「核兵器のない世界」に向けた協力を積極的に取り上げ、「バイデン氏との信頼関係に基づき、国際的な取り組みをリードしていきたい」と提起。バイデン氏は「支持する」と応じた。被爆地である広島選出の衆院議員である首相が、核廃絶を目指す気持ちは理解できる。ただ地域を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、誤ったメッセージを送ることにならないか気掛かりだ。

 北朝鮮は核搭載を念頭にミサイルの発射実験を繰り返している。米国防総省は昨年、中国が2030年までに少なくとも1000発の核弾頭を保有する可能性があると分析した。

 日本は核戦力に関し、米国の「核の傘」に依存する立場だ。日米同盟の強化によって核抑止力を高めるとともに、日本独自の取り組みとして非核三原則の「持ち込ませず」を見直し、米国の核受け入れや核を搭載した原子力潜水艦の寄港容認などを検討する必要がある。

 「核なき世界」は、バイデン氏が副大統領として仕えたオバマ元大統領の主張でもある。だが、中国が南シナ海の軍事拠点化のために人工島の造成を始めたのも、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合したのもオバマ政権時代だ。こうした発言が「弱腰」と映らないか懸念される。

 レアアースの安定確保を

 経済安全保障をめぐっては、次世代の自動車や電池、半導体に必要なレアアース(希土類)を安定的に確保することも重要だ。日本はレアアース輸入の6割近くを中国に依存している。同盟国や友好国との連携による調達先の分散のほか、日本の排他的経済水域(EEZ)内のレアアース開発も急務だ。