【社説】通常国会開幕 感染対策、国のかたち議論を
第208通常国会が開幕し、岸田文雄首相が初の施政方針演説を行った。この中で「最優先課題」と位置付けた新型コロナウイルス対応、経済再生の要とする「新しい資本主義」、喫緊の課題とする少子化対策や子供政策、中国や北朝鮮の軍事的脅威に晒(さら)される中での新時代リアリズム外交、さらに施行75年を迎えた憲法など、質(ただ)すべきテーマは多い。
会期が終わると参院選が控えている。与野党は積極的な議論を行ってもらいたい。
生活を守る対策がない
オミクロン株による感染が急拡大する中、岸田首相は「新型コロナに打ち勝つことに全身全霊で取り組む」と決意を表明。「感染が急拡大し、病床が逼迫(ひっぱく)するような緊急事態に陥ること」を避けるため、医療提供体制の強化、予防・検査・早期治療の強化、ワクチン3回目接種の前倒し、経口薬供給などの対策を並べた。
オミクロン株の特性を踏まえた「めりはりをつけた対策」だと述べている。しかし、感染防止策にとどまり、感染拡大によって大きな制限を受ける生活を守るための対策はほとんど示されていない。
コロナ対応の困難は、感染防止と経済活動の両立を求めざるを得ない点にある。まん延防止等重点措置が首都圏にまで広がる状況の中、第5波までの「自粛」要請で甚大な被害を受けた飲食店や観光業、小売業などの不安は高まっているが、それにどう対応していくのか。「国民の声なき声に、丁寧に耳を傾ける」ことが必要だ。
また、中長期的な感染症対応体制の強化として、迅速な薬事承認、司令塔機能の強化、感染症法の在り方、保健医療体制の確保などを挙げた。だが、国家的な感染症対応の要であり、昨年秋の所信表明演説では挙げていた「国産ワクチンや治療薬の開発」への言及はなかった。さらに、緊急時にお願いベースの対策しかできない現行憲法の限界を克服する「緊急事態条項」についての言及もなく、極めて不十分な内容だと言わざるを得ない。
喫緊の課題とされた少子化対策と子供政策についても、不満が残る。首相が指摘したのは、少子化対策では不妊治療の範囲拡大のみ。子供政策でも①「こども家庭庁」の創設②教育や保育現場で性犯罪歴の証明を求める「日本版DBS」③子供の死因究明④教育・福祉・家庭を通じた子供データ連携――などの外枠づくりの段階にとどまっている。
根本哲学まで踏み込んで
国難とまで言われる少子化にどのように対応し、子供を保護し教育する働きが著しく低下した家庭や地域社会をどのように立て直すのか。目指すべき国のかたちに直結する問題だけに、根本哲学にまで踏み込んだ議論が必要だ。
成長戦略と分配戦略を両輪とする「新しい資本主義」が目指す経済社会改革とは何なのか。そして「新時代リアリズム外交」が目指すものは何なのか。北朝鮮のミサイルを念頭に置いた「敵基地攻撃能力」保有などの防衛力強化策や憲法論議と共に国会で深めてもらいたい。