【社説】米朝関係 平行線では脅威除去できぬ


11日、北朝鮮の国防科学院が行った「極超音速ミサイル」の試射(朝鮮通信・時事)

11日、北朝鮮の国防科学院が行った「極超音速ミサイル」の試射(朝鮮通信・時事)

 年明けから米朝の目まぐるしい応酬が続いている。北朝鮮が「極超音速ミサイル」を2度発射したことを受け、米国が新たな経済制裁を発表すると、今度はこれに反発した北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射。米国が再度、北朝鮮への非難を強めている。

 双方とも断固たる姿勢を相手側に突き付けた形だが、平行線をたどるだけでは北朝鮮の脅威を取り除くことはできない。

年々増す北朝鮮の脅威

 極超音速ミサイルの発射に対し、バイデン米政権は北朝鮮国籍者6人などに制裁を科すと発表し、対象者の米国内資産が凍結されることになった。このうち5人は大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発に必要な部品などをロシアや中国から北朝鮮に送り、別の1人は北朝鮮が保有する大量破壊兵器の拡散に関与していたという。

 ブリンケン米国務長官は声明で、北朝鮮の核・ミサイル開発への対応として「あらゆる適切な手段の行使」を表明した。北朝鮮国籍者を制裁対象にしたのは「重大な懸念を示す」ためだ。

 しかし、それを受け北朝鮮は鉄道発射型とみられる短距離弾道ミサイルを発射した。低空かつ変則軌道で飛行するロシアの弾道ミサイル「イスカンデル」を改良したものとの見方も出ている。北朝鮮外務省は米国の制裁強化を「対決的姿勢」と非難した。

 するとその直後、ブリンケン長官は韓国の鄭義溶外相と電話会談し、ミサイル発射が国連安全保障理事会の決議違反だと非難して韓国との連携を確認する一方、北朝鮮に対話を求めていると述べた。

 米朝とも一歩も譲らない「強硬対強硬」の様相を呈している。問題は北朝鮮が核搭載も視野に入れた各種弾道ミサイル技術を高度化させるため、実験を繰り返していることだ。

 米国が武力挑発に突き進む北朝鮮に対し、毅然(きぜん)とした態度で臨むのは当然のことだ。ただ、圧力を強化しても北朝鮮に友好的な中国やロシアが密(ひそ)かに援助しており、制裁の実効性に疑問が投げ掛けられている。北朝鮮は経済的に追い詰められても内部引き締めで克服し、逆に兵器高度化を続けている。北朝鮮の脅威は年々増すばかりだ。

 バイデン政権は、北朝鮮が段階的非核化に応じることを前提に北朝鮮との交渉に臨もうとしているようだ。だが、北朝鮮は米韓合同演習の完全中止や北朝鮮に対する敵対視政策の放棄などを前提条件に掲げているとみられ、互いに妥協点を見いだせていない。

 バイデン政権は間もなく発足1年を迎えるが、この間、覇権主義的行動を止めない中国への対応やアフガニスタンからの軍撤収などが優先された。今年も11月に中間選挙を控え、「失点」を抑えるためにも外交分野でリスクのある対北朝鮮政策に本腰を入れる可能性は低いとの予想もある。

非核化に資する関係に

 残念ながら事態の打開策を見いだせる状況にはないが、今は圧力を加えるにしろ対話を進めるにしろ、北朝鮮非核化に資するような関係に向かわせることが大事だ。