【社説】日豪円滑化協定 「準同盟国」との連携強化を


オーストラリアのモリソン首相(画面内)と円滑化協定に署名した岸田文雄首相=6日午後、首相官邸

 岸田文雄首相とオーストラリアのモリソン首相は、自衛隊と豪軍が互いの国に滞在した際の法的地位を定める「円滑化協定(RAA)」に署名した。

 日本は豪州を、米国に次ぐ「準同盟国」と位置付けている。インド太平洋地域で覇権主義的な動きを強める中国を念頭に、今後も連携を強化すべきだ。

 国内の共同訓練が円滑に

 RAAは「訪問部隊地位協定」の一種。共同訓練や災害救援などで相手国に一時滞在する際、入国審査や携行品の関税を免除し、武器や弾薬の持ち込み手続きの簡素化を図る。

 日本と他国の間には在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定があるが、自衛隊と相手国軍の双方に適用されるRAAの締結は初めて。日豪RAAが締結されれば、日米豪3カ国による共同訓練が日本国内で行いやすくなる。

 日豪RAA交渉は2014年7月に始まったが、豪州には死刑制度がなく、日本の刑事司法制度への懸念が示されたため協議が停滞していた。しかし東・南シナ海への進出を強める中国の脅威に共同対処するため、両政府は協議を加速。今回の協定では、相手国の法制度尊重を前提とし、日本を訪問した豪州兵の犯罪について死刑適用が否定されない枠組みとなった。

 署名式で岸田首相は「日豪の安全保障協力を新たな段階に引き上げる画期的な協定だ」と強調した。日本と豪州は共に、米国とインドを加えた連携枠組み「クアッド」の一員である。日豪間では、情報保護協定や自衛隊による「武器等防護」など安保分野での協力を他の「同志国」に先駆けて進めている。

 強引な海洋進出を進める中国に対抗する上で、日本と「準同盟国」である豪州との連携強化は非常に重要だ。両首脳はテレビ会議形式で会談し、宇宙やサイバーなどの新領域、重要物資の強靱なサプライチェーン(供給網)構築など経済安保分野の協力促進も申し合わせた。

 豪州は20年4月、新型コロナウイルスの発生源調査を世界に呼び掛けたが、反発した中国が豪州産品に貿易制裁を科している。モリソン政権は米国に接近し、昨年9月には原子力潜水艦を調達するため、米英との安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」創設を発表。今年2月の北京冬季五輪でも「外交ボイコット」でいち早く米国と足並みをそろえた。

 ただ新型コロナへの対応などをめぐって、モリソン政権の支持率は低迷している。最大野党・労働党は親中姿勢を示しており、5月までに行われる総選挙で政権交代した場合、中国に融和的な外交政策を進めることが懸念される。

 豪州は民主主義国家であり、共産党一党独裁体制の中国とは相いれないはずだ。日本は価値観外交を展開し、民主主義陣営を主導する必要がある。

 対中包囲網構築を進めよ

 日本は現在、英国ともRAA締結に向けた協議を行っている。将来的には、フランス、ドイツ、インドとも締結を目指すという。豪州とのケースをモデルに、これらの国とも安全保障協力を強化し、対中包囲網構築を進めるべきだ。