首相きょう就任1年 自民総裁選、政治姿勢も焦点
菅義偉首相が就任して16日で丸1年。自民党総裁選への再選出馬を断念したことで、菅政権には近くピリオドが打たれる。この間、森友学園問題をめぐる公文書改ざん、日本学術会議の会員候補の任命拒否、「政治とカネ」といった問題に対する首相の説明に野党や一部マスコミから批判が集中した。国民に対する説明と説得も民主政治にとっては重要な要素であり、総裁選の大きな焦点だ。
「国民に説明ができる人でないと駄目だ。菅首相が反面教師になるような人が望ましい」。与党関係者は15日、自民党が進める後継総裁選びにこう注文を付けた。
学術会議の任命拒否は、政権発足から間もない昨年10月に発覚した。首相は任命権者として「総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から判断した」と表明したが、詳細な理由は示さなかった。森友問題では公文書改ざんの経緯を記したファイルの存在を国が認めた今年5月、「結論が出ている」として再調査を拒否。2019年参院選で大型買収事件を起こした河井克行元法相夫妻側に、自民党本部が相場の10倍とされる破格の1億5000万円を提供した経緯も党に説明を委ねた。
政権末期を迎えても、説明に対する首相の姿勢は変わらない。新型コロナウイルス対応に専念するとの理由で総裁選不出馬を表明したものの、対策を協議するため野党が求める臨時国会召集は拒んだ。緊急事態宣言の拡大や延長、解除に伴う政府の国会報告にもほとんど出席しなかった。
首相が説明を尽くそうとしないことに対し、野党は巨大与党の数の力を背景とした「安倍1強」体制の下で肥大化した「長期政権のおごりの表れ」(立憲民主党幹部)と批判している。
後継首相の下で政権運営は変わるのか。森友問題の再調査には、どの候補者も後ろ向きだ。岸田文雄前政調会長は「国民が納得するまで説明を続ける」と発言したものの、安倍晋三前首相の不興を買ったとみるや「再調査は考えていない」と軌道修正。河野太郎規制改革担当相は「必要ない」と言い切り、もともと安倍氏に近い高市早苗前総務相は、係争中であることを理由に「コメントは控える」とにべもない。
学術会議問題で、岸田氏は首相に就いた場合でも「人事の撤回は考えない」と明言。高市氏も「(任命を拒否した)理由を明確に説明すればいい」と語り、再考の余地はないとの立場だ。
ただ、「政治とカネ」の問題では目前に迫った衆院選をにらみ、世論を意識していることがうかがえる。岸田氏は「党の説明責任、透明性、ガバナンス改革を考えなければいけない」と語り、1億5000万円の支出も早期に説明すると表明。高市氏も「選挙支援は透明性をもって公平にやっていかないといけない」と強調した。
国民に切実な問題であるコロナ対応では、首相の説明不足が内閣支持率の急落を招いたとの反省からか、説明の重要性を訴える場面も目立つ。岸田氏は「国民の共感が大事だ。説明を国民は求めている」と述べ、河野氏も「国民の声に耳を傾けて政治をやらないといけない」と力説した。