南米各国で感染者が激減 新型コロナ

 ブラジルなど南米の主要各国で新型コロナウイルスの新規感染者と死者が激減している。経済・社会活動が本格的に再開される一方、インド由来のデルタ株拡大に備え、ワクチン接種を終えた人に追加投与する「ブースター接種」もブラジルなどで始まった。その一方で、中米・カリブ海の一部貧困国では、爆発的な感染拡大が問題となっているが、ワクチンを確保できず、国際的な支援に頼らざるを得ないのが現状だ。(サンパウロ・綾村悟)

デルタ株で再拡大の懸念も
ワクチン不足の中米は急増

ブラジルで2回目の英アストラゼネカ製ワクチンを接種する高齢者=5月1日、ミナスジェライス州ベロオリゾンテ(AFP時事)

ブラジルで2回目の英アストラゼネカ製ワクチンを接種する高齢者=5月1日、ミナスジェライス州ベロオリゾンテ(AFP時事)

 「連日、夜遅くまで忙しい。本当にありがたい」。サンパウロ市内の飲食店でマネジャーを務めるミゲールさん(38歳・男性)は、最近の活況に驚いている。

 サンパウロ州政府は先月17日、昨年4月から1年4カ月間続いた経済活動制限措置を全面解除した。サンパウロ州以外にも、多くの自治体が制限解除に動いている。

 商業施設やイベント会場での検温や消毒、ソーシャルディスタンス確保などの制約は残っているが、街中の賑(にぎ)わいは新型コロナの流行を忘れさせるほどのものだ。

 ブラジルは、インドや米国と並び、世界最悪のパンデミックに苦しんだ。今年4月には平均で1日7万人以上の新規感染者と3000人以上の死者を出した。これまでに世界2位の58万人を超える死者を出しており、6月には両親や扶養者を亡くした「コロナ孤児」を支援する政府基金も発表された。

 ワクチン接種完了率が低かった頃は、防衛策として新型コロナの予防や治療に関するさまざまな情報がソーシャルメディア上に溢(あふ)れた。特に、大村智博士が開発した抗寄生虫薬「イベルメクチン」は、重症化を防ぐ特効薬として注目され、薬局の棚から消えた。

 ブラジル以外の南米主要国も、同様に新型コロナパンデミックに苦しんだ。ペルーは、同国発の変異株「ラムダ株」の蔓延(まんえん)により、人口比で世界最悪の死者数を記録した。

 ブラジルでは死者が大幅に減るとともに、重症者用ベッドの使用率もほぼ全域で安全圏に落ち着いている。ペルーやコロンビアなど南米各国でも同様の傾向だ。

 ブラジルの専門家は、ワクチン接種の進展とパンデミックがもたらした免疫獲得が、南米での新規感染者と死者が減った主な理由だとみている。

 今後は、世界保健機関(WHO)が「警戒すべき変異株」に指定しているデルタ株が懸念材料だ。南米各国では、他の変異株が蔓延していたこともあり、デルタ株の感染率が非常に低かった。ブラジルでは、デルタ株などを念頭としたブースター接種も始まっている。

 これに対し、中米やカリブ海諸国では、ここ数カ月間で新規感染者が急激に増えている。変異株の蔓延に加え、ニカラグアやハイチなどの貧困国では、ワクチン接種完了率がいまだ1ケタ台に留(とど)まっていることが原因だ。

 これらの国では、自国でワクチンを買い付ける経済力がなく、国際的なワクチン調達枠組み「COVAX(コバックス)」からの支援に頼らざるを得ない。単価が高く、保管方法も特殊な欧米製ワクチンを独自に確保できる国は、経済・医療基盤のある国に限られる。

 こうした中、パンデミックの只中(ただなか)にあるキューバでは、中南米初の国産ワクチン開発に成功し、すでに国民の6割近くが少なくとも1回のワクチン接種を受けた。

 また、キューバ政府は6日、2歳以上の子供に対するワクチン接種を開始した。12歳未満に対する大規模接種は世界初の試みだ。WHOが承認していないキューバ製ワクチンの効果に加え、子供の副反応など、世界的な注目を集めている。

 12歳未満の就学児に対するワクチン接種は今後、チリやブラジルなどの南米各国でも加速する見通しだ。オンライン授業は各家庭のネット環境構築などハードルが高く、学校の本格的な再開にはワクチン接種が不可欠だとみられている。