「衆参3選挙」現地ルポ、「保守王国」で横並びの激戦


「衆参3選挙」現地ルポ

残る19年参院選のしこり

 参院広島選挙区は2019年の参院選をめぐる大規模買収事件で河井案里の当選が無効になったことによる同県初の再選挙。スローガンに「変える勇気」を掲げる政治団体「結集ひろしま」新人の宮口治子(45)=立憲民主、国民民主、社民推薦=と、「私が自民党を変える」と訴える同党新人の西田英範(39)=公明推薦=が終盤戦に入り、横並びの激戦を繰り広げている。(敬称略)

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 広島はもともと保守勢力の強い地盤がある。参院選では2議席を自民と野党が分け合う無風選挙区で、近年は自民候補が野党候補にダブルスコアで勝利、トップ当選してきた。ところが19年参院選では保守が分裂し、2議席をめぐる激戦を制したのは野党統一候補の現職と、党本部主導で擁立した案里。県連が推したベテランの現職は落選した。

 県連の反対を押し切った「2人目」の擁立、現職の落選、そして大規模買収事件。しこりは今も広島に残っている。特に、河井夫妻による買収事件が与えた衝撃は大きい。今回西田を応援しているという有権者も「前回案里さんに投票した人は裏切られたとかなりショックを受けている。そういう人に投票してくれと頼みにくいのは正直ある」とこぼす。

 総裁を目指す県連会長の岸田文雄にとっては絶対に負けられない戦い。応援弁士として連日決起集会や街頭演説に立つほか、18日には地元紙に県連として全面広告を打ち、「今度こそ信頼できる間違いのない人物を」と訴えた。西田陣営は「党本部も県連も一致団結して広く支持を訴えていく」と強調するが、案里の擁立を主導した党幹部や買収に関わった地元議員らを大々的に活動させるわけにはいかない。

 自民以上に力を入れているのが公明だ。次期衆院選で河井克行の地元広島3区に副代表・斉藤鉄夫の擁立を決めている。今回の「貢献」が衆院選での自民からの支援に直結することもあり、街頭でも揃って頭を下げる場面が目立つ。投開票前最後の日曜日となった18日、夕方の広島駅前で応援演説に立った斉藤は「私たちの力で西田英範を当選させる」と声を張り上げた。

 宮口が所属する政治団体「結集ひろしま」は、立民、国民、社民の各党が共闘する枠組みで、19年の参院選では保守分裂の追い風もあり、候補をトップ当選させている。「保守王国」とも呼ばれる広島で、与野党一騎打ちの構図から候補者を当選させれば、次期衆院選に向けた野党共闘に大きな弾みがつく。選対も「結集ひろしまから結集日本へつながる『広島モデル』のようになれれば」と意気込む。

 しかし野党も一枚岩ではない。共産の県組織と結んだ政策協定が波紋を呼んだ参院長野選挙区補欠選挙と比べれば表立った「ゴタゴタ」はないものの、19年の選挙でも独自候補を擁立し「結集ひろしま」に入っていない共産は表に出ず実働部隊に徹する。立民代表の枝野幸男と国民代表の玉木雄一郎はどちらも11日に広島入りして支援を訴えた。共闘をアピールする絶好の機会だが、玉木の演説が始まる直前に枝野が会場を後にし、隣に並ぶことはなかった。

 共に政治経験のない新人候補。従来なら有権者と握手を交わし、名刺を配り、顔を覚えてもらうことが重要だが、コロナ禍で行われる選挙戦ではマスクの着用やソーシャルディスタンスの徹底が求められる。組織固めに注力する西田陣営も「会合はあまりできない」(選対幹部)と嘆く。各地で行う決起集会では入場者の人数を減らし、検温や消毒液の設置など感染対策を徹底する。「コロナ対策が一番の経済対策」と位置付ける宮口陣営は、会合は行わず街頭演説を原則に屋外での選挙戦に徹する。

(政治部・亀井玲那)