福島原発の処理水問題 政府が責任持ち海洋放出を

インタビューFocus

前環境相・衆院議員 原田義昭氏

 東京電力福島第1原発の事故から今年で10年。環境相時代、現役閣僚として初めて汚染処理した放射性物質「トリチウム」を含む水(処理水)の処分方針に言及した前環境相で衆院議員の原田義昭氏に、今も残る処理水の問題と原子力エネルギーの今後について聞いた。
(聞き手=政治部・亀井玲那、武田滋樹)

前環境相・衆院議員 原田義昭氏

 はらだ・よしあき 昭和19年、福岡県生まれ。東大法卒。昭和45年、通産省入省。平成2年から自民党衆院議員。福岡5区。文部科学副大臣、環境相・原子力防災担当相など歴任。現、党原子力規制・特別委員長。当選8回。

環境相時代に福島第1原発(F1)の処理水について「海洋放出しか選択肢がない」と公言した。

 退任前日の記者会見で、多少悩んだが思い切って処理水の発言をした。着任してすぐに福島を視察し、F1でずらっと並んだ処理水のタンクを見た時からずっと疑問を感じていて、大臣在任中に識者を呼んでゆっくりと処理水について聞いたが、皆さん海洋放出しかないでしょうと言われていた。経済産業省の(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する)小委員会では、海洋放出をはじめ、空中への水蒸気放出、地層注入、地下埋設などの技術的な選択を議論していたが、私の理解では皆、海洋放出しかないように見えた。

 多核種除去設備(ALPS)で汚染水から放射性物質を取り除いた処理水を、さらに第2次処理し希釈して放出することが本筋だ。その安全性については、原子力規制委員会の更田豊志委員長や前任の田中俊一委員長も全く心配ないとおっしゃっている。そういう情報が頭の中にあった。当時の菅義偉官房長官にも一応、1週間ぐらい前に私が責任を持って発言しますということだけは伝えていた。

処理水のタンクはその後も増え続けている。

 来年夏頃には敷地が満杯になる。万が一満杯になれば、次の地域を探さなければならないが、物理的に極めて難しい。どこかで処分しなければいけない。もう一つ大事なことはF1の廃炉処理だ。あの膨大なタンクがあることは具体的な障害になっている。そういう意味でも急がなければいけない。

科学的に安全上の問題はないが、その点があまり発信されていない。

 更田委員長も強い自信を持って何度も言っている。処理水のトリチウムは国際的な水準よりも低い。他の国内外の原発も許容範囲内で出しているので問題は起こっていない。

 退任して約1年外から見ていて、小委員会の判断にもう少し権威と責任を持たせることが必要だ。小委員会が科学的な判断はこうだと言うなら、それを踏まえて内外に説明すべきだ。今のところそれが少しおとなしいかなと感じている。バイデン米大統領もエネルギー政策の中で、あくまでも科学的知見こそが政策判断の基準であると明言している。

風評被害への懸念が根強い。

 風評被害を心配する方は多い。リスクをゼロにできればいいが、ゼロにできない限り常にリスクコミュニケーションという概念が出てくる。記者会見でも、私は全額当然国が責任を持つとはっきり申し上げた。風評被害をゼロにすることはできないが、逃げて面倒を見ないのではなく、国が全力を挙げて対応すべきだ。

次期エネルギー基本計画が今夏に策定される。

 原子力エネルギーの扱いはなかなか難しい。きれいさっぱりやめてしまえという意見もあるが、私はそうは思わない。これほど強力なエネルギー源はない。それを残しつつ安全性を強化していくことが大切だ。次期エネルギー基本計画でも、原子力と再エネの配分や、経済性の問題を含めて、現実的な視点を持って政治は結論を出さないといけない。

世界一の原発技術集積
若手育成し国際的に発揮を

 震災後、本来なら動かせる原発も止めていることで、石油やLPG(液化石油ガス)の輸入に対し全国で年間約5兆~7兆円の費用がかかっていて、そのまま国民経済への負担増となっている。太陽光などの新エネルギーは天候に左右される。リスクがゼロではないという理由で原発をすべて廃炉にしてしまうのは、再考されて然(しか)るべきだ。

原子力エネルギーを活用していくためには、若い技術者の育成が必要だ。

 原子核物理学者で東大総長や文部相を歴任した故有馬朗人先生が、遺言のようにおっしゃっていたのが、日本にとって原子力エネルギーは重要であり、後継者、若手を育てることが絶対に必要だということだ。

 原発は今世界中で約450基動いている。中国、ロシア、インド、中東やアフリカなどでも当たり前のように動いていて、毎年増え続けている。それは日本が原子力発電をやめたとしても変わらない。日本は安全性も含めて技術の集積は世界一だ。それを国際的に発揮するのが日本人のミッション。その重要性や役割が減ることはない。大事なのは原子力エネルギーをどう平和利用していくかだ。

原子力関係の学科の人気がなくなっているようだ。

 産業を残していく限りは若者が入ってくるが、原子力産業が将来にわたって有用で、かつ国際的にも期待されているとならないと、だんだん自信を失って若い人が大学にも入ってこなくなる。将来のエネルギー政策の中で重要なものの一つに位置付けることが必要だ。どんな技術や伝統でも、いったんなくなるともう一度興すのは難しい。危険を徹底的に抑えながら産業として活性化させる努力を怠ってはいけない。

菅首相は脱炭素社会の目標を打ち出した。

 政府は脱炭素に向けた多くの施策を打ち出しているが、私は原子力発電を電力需給の基本に維持することが必要だと主張している。

 さらに、原子力発電は原料を外に頼らないという意味で自前型のエネルギー源でもある。ウランはもちろん買ってこないといけないが、これは特殊な取引で、石炭や石油などを買うのとは違う。そういう意味で安全保障上も有用であるといえる。いずれにしても科学技術は常に発展していて、問題があるなら解決する、乗り越えるという姿勢を常に持っていないといけない。