商業捕鯨再開1年と課題 参院議員・参院農林水産委員長 江島 潔氏

インタビューfocus

参院議員・参院農林水産委員長 江島 潔氏

 日本が商業捕鯨を再開して今月1日で1年を迎えた。国際的な反発は当初懸念されたほどではなかったが、自立した持続可能な商業捕鯨への課題は多い。参議院議員で同農林水産委員長を務める江島潔氏に今後の方策を聞いた。(聞き手=特別編集委員・藤橋進、政治部・亀井玲那)

参院議員 参院農林水産委員長 江島潔(えじま・きよし)氏 1957年生まれ。東大大学院工学系研究科修了。95年から山口県下関市長(通算4期)。2013年4月から参院議員(自民党、当選2回)。第3次安倍第1次改造内閣で国土交通大臣政務官。現在、参院農林水産委員長、自民党捕鯨議員連盟副幹事長。

参院議員 参院農林水産委員長 江島潔(えじま・きよし)氏 1957年生まれ。東大大学院工学系研究科修了。95年から山口県下関市長(通算4期)。2013年4月から参院議員(自民党、当選2回)。第3次安倍第1次改造内閣で国土交通大臣政務官。現在、参院農林水産委員長、自民党捕鯨議員連盟副幹事長。

商業捕鯨再開で国際的な反発、外交への影響を懸念する声もあったが、それほど厳しいものはなかった。その要因をどう考えるか。

 そもそも国際捕鯨委員会(IWC)は加盟国が90カ国くらいの組織で、国連(加盟国数193カ国)とは全く違う。実態として出たり入ったりする国があり、もともと世界が反発する種類のものでもない。

 また日本と同じスタンスに立つ国も多い。脱退を表明する前の一昨年の暮れに、捕鯨議連のメンバーで手分けをして世界各国に飛んで、直接説明に回っている。反捕鯨の立場の国を含め、十分に根回しをした上での離脱だったので大きな反発はなかった。

 反捕鯨活動をするシーシェパードなどはいわゆる環境テロリストで、お金をもらって活動している。南極での捕鯨についてはそれなりの資金が集まったそうだが、日本の排他的経済水域(EEZ)での捕鯨については誰も資金を出さないので、反応も抗議活動もないというのが実態だ。日本はEEZ内で、IWCで認められた捕り方で非常に抑制的に捕鯨をしていて、外国も文句のつけようもない。

EEZ内に限定し、調査捕鯨もできなくなったことで、頭数、量は減った。今後捕鯨量を増やしていくための方策は。

 IWCの計算式は、その量で100年捕り続けても資源量に影響しない数を割り出している。また日本近海は未調査のところがたくさんある。今後調査をしてより資源量を精密に確保することが、商業捕鯨の捕獲可能量を増やすことにつながる。

 もう一つ、EEZの外の公海でやるという手段がある。ただ、日本は国際海洋法条約に参加している以上、国際機関の下で管理された捕り方をしないといけない。具体的な動きにはなっていないが、新たな国際機関を作ることは脱退前から検討している。実際にIWC以外にも北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)という組織があって、ノルウェーとアイスランドはこれに基づいて北極で商業捕鯨をしている。こういったやり方は、海洋法条約をクリアするための取り組みとして、今後の検討課題の一つだ。

持続可能な捕鯨のためには、国内消費を伸ばす必要がある。その方策は。

 これが一番の今の課題だ。この30年間、調査捕鯨をする中で鯨肉を食べたことがない人があまりにも多くなってしまった。また食べたことがあっても美味(おい)しかったという思い出のある人ばかりではない。ところが昔のクジラと比べ今のクジラは、保存状態も全然違うので各段に美味しくなっている。商業捕鯨になってさらにワンランク美味しくなった。

 調査捕鯨の頃は調査をした結果の副産物としての肉だったが、今は頭数を決めているので、なるべく大きいものを捕ろうとしている。最近のクジラを食べた方は、皆さん昔に比べて美味しいと必ず言われる。

 ところが出回っている量が少ないし、食べられる地域が圧倒的に限られている。まずクジラを食べる層を育てていくことからやっていきたい。

IWCでは従来通り発言

日本の捕鯨は、自然共生型だ。そういった日本の捕鯨文化に対する誤解を解くためには、世界に向けた発信が必要だと思うが。

 日本の捕鯨は一つのシンボルでもある。例えば民族によっては、宗教上の理由で特定の動物を食べないというのはいくらでもあるし、それは歴史的な食文化であって、他民族がとやかく言うべきものではない。異なる民族、人種、文化がある中で共生していくためには、人類の唯一の共通言語である科学を物差しにして判定していかないといけない。

 IWCはまさしく科学の部分を請け負っていた。日本が中心になって資源調査をして、このクジラは何頭いるからここまで食べてもよいと、全部科学的に立証して合意した数値がある。科学に基づいた捕鯨という立場において、日本はIWCで絶対にひるむべきではない。

IWCにはオブザーバーという形で参加して調査を続行するということだが、2002年にアイスランドが復帰したケースを参考にして日本ももう一度IWCに復帰すべきだという意見もある。

 実はアイスランドの復帰も日本が働き掛けた。アイスランドはNAMMCO(北大西洋海産哺乳動物委員会)という組織で北極で捕鯨をしていたので、IWCにいる必要がなかった。ただ日本の立場からすると、IWCの中に実際に商業捕鯨をしている国がいてほしかった。

 日本は今後オブザーバーとしてIWCに残るが、オブザーバーは本会議場での投票権がないというだけで発言は普通にできる。科学委員会に提供しているデータもほとんど日本の調査を基にやっている。また日本はIWCの運営費の10分の1を拠出していたが、今後はもう払わないので、IWCの予算は一気に10%減ってしまうことになる。反捕鯨国側がもう1回帰ってきてくれないかと日本を呼び戻そうとするかもしれない。

今年は総会が延期になったが、日本として来年の総会にどう臨むか。

 商業捕鯨を始めて、IWCで認められた計算式に基づいてこれだけ捕っていますという報告とともに、これまで資源量など多くのデータを提供していたので、それについては引き続き真摯(しんし)に提供する。

 IWCの中で重要な決定事項には総員の4分の3の賛成が必要だ。単なる決議案は過半数でよいが、4分の3で例えば条約の本体そのものを変えることもできる。日本が脱退する旨を各国に通告して回った時にも、捕鯨推進派が4分の1を割らないようほかの国には残ってほしいということを伝えた。総会の前には捕鯨推進国が日本に集まって、わが国が調査捕鯨によって得た最新情報を共有しながら理論武装して総会に臨んできたが、そのスタンスは今後も変わらないだろう。