持ち続けた「世界覇権」の野望


中国共産党100年

―識者はこう見る

評論家 石平氏

評論家 石平氏

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院博士課程修了。民間研究機関を経て評論活動に入る。2007年に日本国籍取得。著書に『中国共産党 暗黒の百年史』『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』など多数。

 中国共産党が持っているDNAには、世界覇権を目指す野望がある。

 そもそも100年前の共産党大会も、旧ソ連のコミンテルンの指導の下で行われた。コミンテルンは旧ソ連が世界革命を目指した組織で、中国共産党もその極東支部という位置付けだった。

 世界全体を征服する世界革命の発想は、中華帝国の発想と見事に重なった。

 毛沢東時代は国民に対し虐殺や粛清を行使し、文化大革命という大惨事をもたらした。鄧小平時代には民主主義に向かうのではないかと期待されたが、習近平政権になると毛沢東時代の恐怖政治に逆戻りした。

 中国共産党史は結局、暴力革命から始まって、暴力的独裁政権に至るという100年だった。

 共産党が政権を取ると、周辺地域に向かって侵略戦争を盛んに行った。朝鮮戦争にもベトナムにも出兵した。インドネシアでも華僑を利用して革命を起こそうとして失敗している。インドでも国境を挟んで戦争を起こした。

 世界革命の美名の下、実質は中華帝国の支配を試みたにすぎない。

 リアリストの鄧小平時代になると、しばらく世界支配の野望を覆い隠し、経済力と軍事力の増大に専念した。彼らが編み出した戦略は、西側の経済力と技術力を利用して、中国の経済力と軍事力の増強に貢献させるというものだった。

 さらに返す刀で、強大化した中国の軍事力と政治力を用いて西側世界を潰(つぶ)そうとしている。

 習近平政権になると、鄧小平が作り上げた軍事力と経済力を集大成し、全面的に世界支配の野望を実現させようとしている。

 手始めに香港の一国二制度を潰した。また世界各地で一帯一路を通じ、発展途上国を実質的に支配していこうとしている。

 経済や軍事力など、あらゆる手段を駆使し世界支配をたくらんでいるのが習近平政権だ。

 世界覇権を目指す中国共産党が、そのゲート(入り口)と認識しているのが台湾だ。

 南シナ海の軍事拠点化も、ほぼ完成した。次は台湾を軍事的に制圧できれば、インド太平洋の軍事バランスは崩れ、沖縄を皮切りに日本そのものもターゲットになってくる。だから中国にとって台湾併合は絶対的命題であって、それが実現できたら太平洋の西側は中国のものになる。

 新型コロナウイルスが世界に禍(わざわい)をまき散らしている。武漢研究所から出たものが意図的だったかまだ分からないが、習近平政権はこれで味を占めた。ウイルス一つで世界を潰せることを学習したからだ。

 個々人の自由意志を尊重する自由民主世界は、感染者が見つかっても、強制的に隔離させることができない。習近平はこうした民主主義のアキレス腱(けん)に気が付いた。西側世界を潰すのに核兵器は要らない。ウイルスを放てば、民主世界は大混乱する。だからこの政権は、際限なく危険だ。

 中国の世界覇権の野望を打ち砕くには、自由世界が団結する以外にない。経済的なデカップリング(切り離し)を完璧にやり切り、軍事的、地政学的に封じ込め、外交的に孤立化させることだ。そうすることで、中国内部の変化を促せる。

 西側から政経共に切り離されれば、中国は窮地に陥る。経済も駄目になる。そうなると中国共産党内部でも不平不満が出てくる。

 だから西側社会は非情な覚悟で中国を切り捨てないと、深みにはまって最後は中国にのみ込まれてしまう。

 無論、これには損失と痛みを伴う。西側世界に問われているのは「肉を切らせて骨を断つ」覚悟だ。

 普遍的価値としての人権擁護も重要だ。経済的利益のために人権を犠牲にするようなら、西側世界の存在意義が無くなる。(談)