国を守るという意味

拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授 濱口 和久

民間防衛の先進国スイス
見習うべき国民の国防意識

濱口 和久

拓殖大学防災教育研究センター長・特任教授
濱口 和久

 日本ではスイスを非武装中立国と思っている人が多い。しかし、スイスは武装中立と徴兵制(国民皆兵制)を国防戦略の基本に据えている。

 スイスは1648年10月24日、ヨーロッパの30年戦争が終わって締結されたウェストファリア講和条約において独立を達成する。このときからスイスは武装中立国家を目指して国家建設を進めてきた。1648年というと、日本では徳川幕府第3代将軍の家光の治世のころだ。

訓練忌避で国籍剥奪も

 スイスの男子は、19歳もしくは20歳になると、初年兵学校で15~17週間の新兵訓練を受けなければならない。そのときに受領した小銃は、自宅に持って帰って格納する。その後、予備役という有事動員要員として、毎年3週間の訓練を10回に分けて受ける。訓練期間の日当と費用は、スイスの企業が80%負担している。海外で生活していても、帰国して新兵訓練、予備役の訓練を受けなければならない。悪意を持って、あるいは意図的に訓練に参加しなかった場合には、最悪の場合はスイス国籍を剥奪されてしまう。

 スイスでは、自宅に核シェルターがほぼ100%完備をされている。2012年からは自宅の下にシェルターを設置しない場合、自治体に日本円で約19万円を支払い、最寄りの公共シェルターに家族全員分のスペースを確保することになっている。スイスのパンは不味(まず)いことで有名だ。なぜ不味いのか。その年に穫れた小麦をすぐには使わず、備蓄に回し、古い小麦から使うという政策を実施しているからだ。

スイス国内の道路・橋梁(きょうりょう)・堤防などのインフラ施設は、有事には破壊して障害化できるように細工され、民間の飛行場も軍用に転換できる。農地も機関銃陣地や、対戦車陣地がいつでも造れるような形になっている。

 スイス人は誰一人として、非武装中立で平和が守れると思っていない。スイスの国民が自分たちの国を守るためのバイブル本がある。スイス政府編『民間防衛』だ。スイスでは各家庭に無償配付されている。

 戦後、日本では「徴兵制=軍国主義=戦争への道」という風潮が広がった。冒頭に述べた通り、スイスは徴兵制を維持している。日本では今後も徴兵制を導入するような動きにはならないだろうが、日本人はスイス人の国防意識(覚悟)を見習うべきである。なぜなら、スイスよりも日本の置かれた地政学的環境の方が厳しいからだ。

 大東亜戦争の敗戦後、日本では、戦うことを否定し、国防を軽んずる風潮が長く続いた。そのため、世界では通用しないような非常識な国防議論が繰り返されてきた。地球から国境線が無くならない限り、国家は自前の軍隊をもって、自国の平和と安全を担保している。

 日本の自衛隊は、警察予備隊、そして保安隊を経て今日の姿となった。自衛隊は創設以来、志願制を採用してきたが、少子化の中で、人員不足の問題が深刻化してきている。自衛隊だけでは国を守ることはできない。国民一人ひとりが、国防について真剣に考えるような社会をつくらなければ、気付いたときには手遅れになる。

スパイ天国・日本の脆さ

 中国やロシアの工作員は、さまざまな肩書で日本に入国し、スパイ活動を行っている。日本にスパイ防止法がないことをいいことに、中国やロシアの工作員は野放し状態だ。仮に逮捕・起訴されても重罪には問われない。日本が「スパイ天国」と揶揄(やゆ)される所以(ゆえん)でもある。日本に諸外国並みのスパイ防止法があったならば、北朝鮮の工作員による拉致事件も起きなかったかもしれない。日本政府はスパイ防止法の制定を急ぐべきだ。

 北朝鮮は核だけでなく、大量の生物・化学兵器(BC兵器)を備蓄している。すでに工作員によって、BC兵器が日本国内に持ち込まれている可能性もある。

 それに対して、テロを想定した国民の行動マニュアルを政府や地方自治体が策定すべきだが、そのような動きは一切ない。国民を危険に晒(さら)しているに等しい国家が日本なのである。

(はまぐち・かずひさ)