コロナ再調査 中国に要請受け入れを迫れ


武漢ウイルス研究所(AFP時事)

武漢ウイルス研究所(AFP時事)

 世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスの起源に関する再調査をめぐって、中国など各国に生データを含む情報を提供するよう求める声明を発表した。ウイルスは中国・武漢の研究所から流出したとの疑いが強まっている。国際社会は、中国が再調査の要請を受け入れるよう迫るべきだ。

 強まるウイルス流出説

 WHOは、再調査で2019年の初期の症例の生データや血清を調べることになると説明。「科学的な理解を進めるため、データへのアクセスは決定的に重要だ」とした上で、データ提供を「政治問題化すべきでない」と強調した。中国が再調査を拒否していることを念頭に置いたものだろう。

 WHOは今年1月、調査団を中国に派遣。調査団は報告書で、動物から中間宿主を通じて人に感染したとの仮説が最も有力とし、武漢の研究所からウイルスが流出したとする説は「極めて可能性が低い」と結論付けた。

 しかし調査は感染確認から1年以上が経過して行われたものである上、実質1週間の調査期間には新型コロナとの闘いを宣伝する展示会など科学調査とは無関係な視察先が幾つも組み入れられた。日米など各国が「データや検体へのアクセスが欠如していた」として、再調査を行うよう求めたのは当然だ。

 一方、米メディアが5月、武漢の研究所の研究者3人が19年11月に体調不良で治療を受けていたと報じたことで、ウイルス流出説が有力になっている。バイデン米大統領は同月、流出説と動物を介した自然発生説の二つについて、90日以内に調査結果を報告するよう情報機関に指示した。

 米下院外交委員会のマッコール筆頭理事(共和党)と同党スタッフは今月、流出説について多くの証拠があると指摘する報告書を発表した。報告書は、研究所のウイルスに関するデータベースが19年9月に消されていたことや、同時期に研究所近くの病院を訪れる人が急増していたことを状況証拠として列挙。「市場起源説」を唱えた米科学者を議会に召喚し、流出に関与したとみられる中国科学院などに制裁を科すよう訴えている。

 流出説との絡みで、武漢の研究所で行われていたウイルス実験に米政府の研究機関が資金提供していたことも問題となっている。この資金を配分する権限を握るのは、バイデン氏の首席医療顧問を務めるファウチ国立アレルギー感染症研究所長だとされる。

 実験で作られたウイルスは危険性が高く、漏洩(ろうえい)すれば大きな被害をもたらす恐れがあった。米政府はこの問題の解明を急がなければならない。

 全面協力すべき責任

 中国はWHOによる再調査の要求に反発している。WHOが7月に中国で追加調査する計画を打ち出した際には「常識を重んじず、科学に反するものだ」などと非難した。

 しかし、新型コロナが既に全世界で430万人以上の死者を出し、いまだに猛威を振るう中、感染拡大の原因究明は不可欠だ。中国には透明性のある再調査にデータの提供などで全面協力する責任がある。