中国ロケット 安全軽視の宇宙開発を許すな
中国が4月下旬に打ち上げた大型ロケット「長征5号B」の残骸が、制御不能状態のまま大気圏に再突入してインド洋に落下した。人的被害などは報告されていないが、陸地に落下すれば甚大な被害が生じる恐れがあった。安全を軽視した中国の宇宙開発は決して容認できない。
残骸がインド洋に落下
中国は最大の運搬能力を持つ長征5号Bを使って独自の有人宇宙ステーションのコアモジュールを打ち上げ、地球周回軌道への投入に成功。ただ、このロケットは全長約54㍍と大きく、米軍などは大気圏再突入時に残骸が地表に落下する恐れもあるとみていた。
米航空宇宙局(NASA)のネルソン長官は、ウェブサイトに掲載した声明で「宇宙に進出する国家は、宇宙から再突入した物体が地上の人々や器物に及ぼすリスクを最小限に抑えなければならない」と述べた。中国がこうした責任を十分に果たしていないことは明らかだ。
中国は宇宙ステーションを2022年に完成・運用することを目指し、今後も有人宇宙船や実験モジュールなど10回の打ち上げを計画している。しかし宇宙開発を急ぐあまり、安全を軽視して地上の人たちを危険にさらすことは言語道断である。
中国は07年1月、弾道ミサイルを発射して老朽化した気象衛星を破壊。衛星の破片(宇宙ごみ)が他国の人工衛星などに損傷を与えることが懸念され、国際的非難を浴びたが、安全意識に変化はないようだ。昨年5月に中国が打ち上げたロケットの破片が、西アフリカ・コートジボワールの民家に落下したとも報じられている。
一方、中国の習近平国家主席は今回のロケット打ち上げ成功を受けて「宇宙ステーションの建設、国家宇宙実験室の完成は宇宙強国建設に向けた重要なプロジェクトとなる」と述べた。中国の宇宙での覇権拡大に向けた動きも大きな懸念材料だ。
中国は宇宙開発で米国の優位性を弱め、主導権を握ろうとしている。中国の宇宙開発は軍主導で行われてきた。
これまで国際宇宙ステーション(ISS)の運用をめぐって米国と協力してきたロシアは、ISSの老朽化などを理由に25年以降の撤退を考えているとされる。中国の宇宙ステーションが完成し、ISSの運用で積み重ねられた知見や技術が今後ロシアから中国に流出すれば、米国やその同盟国には大きな脅威ともなりかねない。
既に中国は19年1月、世界で初めて月の裏側に無人探査機を着陸させ、昨年6月には独自の衛星測位システム「北斗」を完成させている。しかし中国のなりふり構わぬ宇宙開発は極めて身勝手なものであり、それが安全軽視の姿勢にも表れている。宇宙での危険防止のための国際ルール作りが急がれる。
日本は有人宇宙戦略を
宇宙空間で存在感を高める中国を念頭に、米国のトランプ前政権は米国人宇宙飛行士を24年に月へ再び送る「アルテミス計画」を打ち出した。日本もこの計画に参加する方針だ。これとともに、日本も独自の有人宇宙戦略を描いて宇宙開発に大きく貢献することが求められる。
(サムネイル画像:Wikipediaより)