中国海上安全法 日本は尖閣の実効支配強化を


 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会が、海上交通の安全管理を担当する海事局の権限を強化する改正海上交通安全法を可決した。

 中国が一方的に領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島周辺で海事局が活動するためのものだ。日本は尖閣防衛に向け、実効支配を強化する必要がある。

 海事局も領海侵入の恐れ

 改正法全文は明らかになっていないが、草案では中国側が「脅威」と判断した外国船に領海からの退去を命じる権利があると明記。現行法は、退去命令の対象を「港の安全に脅威となる」と判断された船舶に限定しているが、改正で尖閣周辺海域や南シナ海も適用対象となる。

 また「海上交通の安全に危害を及ぼす可能性のある船舶」が領海を航行する場合に報告を求め、違反すると5万~50万元(約84万~約840万円)の罰金を科すとしている。9月1日に施行される。

 中国では2月に「第2海軍」と呼ばれる海警局の武器使用について明記した海警法が施行された。海警船は尖閣周辺で領海侵入を繰り返している。今回の改正で、海事局も領海侵入を行う恐れがある。尖閣奪取への体制を強化する狙いがあるとみていい。

 国際海洋法条約は、沿岸国の平和や秩序を乱さない無害通航であれば、他国の領海での通航を容認している。しかし改正法では、中国が留保宣言を行えば国際条約の規定は適用されないとしている。海警法と共に国際法を無視した手前勝手な法律である。

 4月の日米首脳会談で、バイデン大統領は尖閣が日米安全保障条約第5条の適用対象であると改めて表明した。ただ尖閣は日本の領土であり、その防衛を米国任せにすることがあってはなるまい。日本は尖閣有事を想定した米軍との共同訓練などを実施するとともに、独自に尖閣を防衛するための取り組みを進めるべきだ。

 海警局は2018年7月、軍の最高指導機関である中央軍事委員会の指揮下にある人民武装警察部隊(武警)に移管された。実質的には「第2海軍」だが、海上法執行機関の建前を維持している。

 平時と有事の間の「グレーゾーン」で日本による尖閣の実効支配を崩すためだ。海警局の動きに対して海上自衛隊が出動すれば、日本が「軍」を動員し事態をエスカレートさせたと国際社会にアピールすることを狙っている。日本はグレーゾーンに対処するための法整備を急ぐ必要がある。

 これとともに尖閣の実効支配を強化しなければならない。国家公務員の常駐や政府の灯台、観測所の設置などを進め、尖閣が日本固有の領土であることを一層明確に示すべきだ。

 国民の主権意識高めよ

 尖閣は何度も現地調査が行われた上で、1895年1月に日本領土に編入された。中国が尖閣の領有権を主張するようになったのは、国連が東シナ海に石油埋蔵の可能性があることを指摘した後の1970年代に入ってからだ。日本はこうした事実の発信を強化し、国民の主権意識をさらに高める必要がある。