外交青書 強い危機感で対中政策進めよ


 2021年版外交青書が茂木敏充外相によって閣議で報告された。東・南シナ海での中国による膨張政策に対して「安全保障上の強い懸念」と明記。強い危機感を背景に踏み込んだ表現となった。

海警法に「深刻な懸念」

 沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵入に対しては、初めて「国際法違反」と指摘した。中国海警局の武器使用権限を明確化した2月施行の海警法について「国際法との整合性の観点から問題がある」と批判。「深刻な懸念」を表明した。

 中国は尖閣を自国領とみなしており、尖閣沖での中国海警船の領海侵入が後を絶たず、今年は既に14回を数える。尖閣沖では、海警船による日本漁船の追尾も常態化している。

 日本は公務員常駐など尖閣の実効支配強化や、平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」に対処するための法整備を進めるべきだ。これとともに、米国などの民主主義国家と連携して中国に対する批判や圧力を強めていく外交政策が求められる。

 台湾については、従来通り「極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付け、中国が反対する台湾の世界保健機関(WHO)総会へのオブザーバー参加を「一貫して支持している」と重ねて表明した。

 中国は台湾統一のため、武力行使も辞さない方針を示している。台湾が中国に侵攻されれば、日本に対する中国の脅威も増大しよう。米国と共に台湾との安全保障協力を進めていくためにも、台湾との関係において法的基礎がない現状を是正する外交を展開すべきだ。

 中国の国防費は過去30年間で約44倍に急増。青書では「陸上発射型の通常弾道・巡航ミサイルを含め、いくつかの分野では既に米国と同等かそれを上回る能力を得ている」とする米国防総省の分析も紹介した。

 日米同盟における日本の役割分担が拡大しつつあると言えよう。「自由で開かれたインド太平洋」構想を進め、対中包囲網を構築する外交戦略を推進する必要がある。

 20年版ではほとんど触れなかった新疆ウイグル自治区の人権状況について、21年版では「深刻に懸念している」と表明。中国政府が香港の統制を強める香港国家安全維持法は「日本を含む国際社会からたびたび重大な懸念が示された」と言及した。自由、基本的人権の尊重、法の支配などの普遍的価値を共有する民主主義国家は、共産党一党独裁体制の中国と厳しく対峙(たいじ)する姿勢が求められる。

日米韓の連携が重要

 一方、青書は韓国について「重要な隣国」との表現を踏襲した。ただ、戦時中の請求権の問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場を強調。徴用工訴訟で被告となった日本企業の韓国内資産の現金化を「絶対に避けなければならない」と主張した。慰安婦訴訟で日本政府への損害賠償を命じた判決にも触れ、「国際法違反の状態の是正」を強く求めた。

 核・ミサイル開発を進める北朝鮮の脅威に対処する上で、日本は韓国の文在寅政権に反日姿勢を改め、日米と連携することの重要性を伝え続けるべきだ。