バイデン氏演説、具体的行動で中国抑えよ


 バイデン米大統領は、就任から100日を迎えるのに合わせて、米連邦議会の上下両院合同本会議で就任後初の施政方針演説を行った。

100日の成果アピール

 100年に一度のパンデミックに襲われ、大恐慌以来の経済危機にあるなど米国は厳しい環境にあるが、新型コロナウイルス対策では2億回以上のワクチン接種を達成し、この100日間で過去のどの大統領よりも多い130万人以上の新規雇用を創出したことなどを挙げ、バイデン氏は「危機を可能性と機会に、挫折を力に変えて米国は再び動き出した」と述べ、政権100日の成果をアピールした。

 また2兆㌦を超える雇用計画や、富裕層への増税を財源に中間層の生活環境向上を目指す1・8兆㌦規模の家族計画を発表するなど“大きな政府”を目指す考えを明らかにした。

 専ら国内向けを意識する施政方針演説の中で外交問題を大きく取り上げ、中国との対決姿勢を鮮明にしたことも今回の演説の特徴であった。バイデン氏は中国の習近平国家主席を「専制主義者」と呼ぶなど「民主主義対専制主義」の体制間競争の考え方を押し出し、習氏は「民主主義は21世紀には専制主義に対抗できないと考えて」おり、中国が「世界で最も重要な国になるため必死になっている」と強い警戒心を示した。

 そして、米国が「ヨーロッパでのNATO(北大西洋条約機構)と同様に、インド太平洋で強力な軍事力を維持」して「人権と基本的自由へのコミットメントから手を引かない」ことを習氏に直接伝え、軍事・安全保障、人権問題で中国に譲歩しない考えであることを強調した。

 また中国による「米国の技術や知的財産の窃取、不公正な貿易慣行に立ち向かう」と述べ、経済分野でも対決姿勢を明示。中国との競争に勝利するためにも、国内産業の競争力強化や研究開発の加速、中間層の復活、国内の融和が必要だと訴えた。

 高齢であることや存在感の薄さから、バイデン氏の指導力には不安感が拭えず、親中派との噂(うわさ)も絶えない。そうした中、民主主義の優位を示し米国が中国との競争に勝つ決意を示した今回の演説は、全米を覆う強い反中世論を意識し、中国に妥協せず最後まで戦い抜く強い指導者像を米国民にアピールする点では成功を収めたと言える。

 だが演説から、バイデン政権が対中強硬路線を堅持すると判断するのは早計に過ぎよう。演説の中でバイデン氏は、中国との「競争は歓迎するが対立は望まない」とも述べており、新疆ウイグル自治区での人権弾圧や南シナ海の島嶼(とうしょ)占領など具体的な問題には触れなかった。

同盟国への関与求めよ

 4月の日米首脳会談で中国を批判する一方、同じ時期にケリー大統領特使を中国に派遣し気候変動問題で合意の途(みち)を探るなど、バイデン政権の対中政策は対決と宥和(ゆうわ)を併せ持っている。

 日本は演説や声明だけに目を奪われず、中国の膨張や野心を阻止する具体的な行動を以(もっ)てその決意を示すようバイデン政権に促すとともに、同盟国に対する米国のコミットメントを強く求めていくことが必要だ。