米軍住宅跡地を医療研究拠点に、専門家らが沖縄の未来像を提言

革新県政で西普天間住宅地区再開発構想が後退

 米軍の西普天間住宅地区(沖縄県宜野湾市)が2015年に返還された。県が同地区再開発の基本構想に掲げる「沖縄健康医療拠点」や沖縄の将来像について、医療やIT、自治分野の専門家らが、魅力ある跡地利用の在り方や沖縄県の未来づくりについて語った。
(沖縄支局・豊田 剛)

スタンフォード大、東北大をモデルに

ワクワクする体験、ビジョン必要

 「世界一の沖縄県をつくりたい。夢は限りなく大きい方がいい」という思いから、那覇西クリニック診療部長の玉城(たまき)研太朗氏はこのほど、医師仲間やIT、自治などの分野で活躍する新進気鋭のスペシャリストらを招き、浦添市でシンポジウムを開催した。

米軍住宅跡地を医療研究拠点に、専門家らが沖縄の未来像を提言

講演する玉城研太朗氏=6月15日、沖縄県浦添市産業支援センター

 玉城氏は、東京ディズニーランド(千葉県)と同じ規模の約50㌶の西普天間住宅地区が「世界に誇る医療クラスターになる」と強調した。

 同氏が留学した米スタンフォード大学があるカリフォルニア州には、グーグル、ヤフーなど世界有数のIT企業が集中するシリコンバレーがある。「シリコンバレーと沖縄県の歳収は雲泥の差がある。総合的な問題解決には財政力は無視できないが、沖縄はアジアの中心としての地の利があり、可能性にあふれる」

 こう期待を示した上で、「世界一の観光都市、または、健康長寿の島を目指すには、トップの決断、戦略が重要だ」と訴えた。

米軍住宅跡地を医療研究拠点に、専門家らが沖縄の未来像を提言

 西普天間住宅地区跡地利用の具体的な構想としては、仲井真弘多(ひろかず)知事時代に提案された国際医療拠点構想があるが、2014年に革新県政が誕生したことをきっかけに同構想が停滞している。

 この返還跡地利用計画について、前宜野湾市長の佐喜真(さきま)淳氏は、「琉球大学医学部・同病院、がん治療の重粒子線治療施設、最先端再生医療を集積しながら、それに隣接する普天間基地飛行場の跡地利用につながるような産業、医療、福祉、観光を集約させ、多様性を平和に活用できるよう政府に求めてきた」と話す。

 日米両政府が合意している在日米軍再編計画によると、沖縄本島中部の嘉手納基地以南の米軍施設の大半が返還される。佐喜真氏は「全国の都市圏で大規模な土地が残っているのは米軍施設。今後50年を見据えると沖縄が日本を引っ張っていく可能性がある」と指摘した。

米軍住宅跡地を医療研究拠点に、専門家らが沖縄の未来像を提言

登壇した日本学術振興会の里見進理事長(右)らパネリスト=6月15日、沖縄県浦添市産業支援センター

 玉城氏は、「壮大な計画があったが、どんどん縮小し、事業規模が小さくなった。政治の力を借りてプロジェクトを復活させたい。琉球大学の移転で大きな箱ができても、何を研究するか中身が重要だ」と指摘した。

 「沖縄にとって東北大学がモデルになり得る」と指摘したのは元東北大学総長で日本学術振興会の里見進理事長。東北大学青葉山新キャンパス(宮城県仙台市)に放射光施設が今年3月着工したことについて、「研究施設に続いて新たな産業ができ、一大クラスターになる。元は田舎だったスタンフォードのように成功させたい」と意気込んだ。沖縄の可能性については、「(米軍返還予定地など)土地がある。あとは資金があれば可能だ」と語った。

 近年の若者の受け身的思考に警鐘を鳴らしたのは、小中高校生向けの実験教室や出前授業、科学全般に立脚した各種事業を手掛ける株式会社リバネス取締役副社長CTO(最高技術責任者)の井上浄(じょう)氏だ。同氏は、ミドリムシの栄養素に着目し研究・商品開発している株式会社ユーグレナを例に挙げ、アイデア次第で仕事が生まれ、成功すると強調。沖縄に産業が乏しいことを悲観すべきではないと訴えた。さらに、再生医療分野の可能性を指摘した上で、「時代のスピード感を実感しながら職業をつくっていくというマインドを次世代の人々に持ってほしい」と呼び掛けた。

 シンポジウムには、初代沖縄県医療政策参与で那覇西クリニックの玉城信光院長、再生医療研究が専門の琉球大学大学院医学研究科の清水雄介教授、沖縄県医師会の比嘉靖理事、琉球大学の産学官連携推進機構特命准教授で沖縄市経済文化部観光振興課の宮里大八(だいや)主幹も参加した。

 参加者は、西普天間地区の医療クラスター構想に賛同した上で、①産官学民が連携すること②異業種交流をしてアイデアを出すこと③子供たちにワクワクするような夢を持ってもらうこと④受け身ではなく積極的な姿勢を持つこと――の必要性で一致した。