北朝鮮拉致の疑いの特定失踪者34人 「国民の集い」沖縄で初

地元メディアはさらに周知を

 北朝鮮による拉致被害について考える「国民の集い」がこのほど、那覇市内で開かれた。政府拉致問題対策本部、県、那覇市が共催した。公的機関が主催する拉致問題の集い開催は県内では初。被害者家族は、地元メディアが報道をもっと積極的にすべきであると訴えるとともに、県のこれまでの対応の遅さに苦言を呈した。(沖縄支局・豊田 剛)

県の対応の遅さにも苦言

西岡力・救う会会長、今が救出のチャンス

沖縄で初、拉致問題の「国民の集い」開かれる

集会後、記者団の質問に応じる横田拓也さん(右端)と沖縄の特定失踪者家族ら=3月24日、沖縄県那覇市の沖縄県青年会館

 政府が主催する「国民の集い」は平成20年から行われてきた。今回の沖縄での集いには約250人が参加した。沖縄には、拉致の疑いがある特定失踪者は34人いるとされる。人口比では全国で2番目の多さだ。

 集いでは、主催者を代表して拉致問題を担当する菅義偉官房長官と沖縄県の謝花喜一郎副知事があいさつ。続いて、拉致被害者家族を代表して横田めぐみさんの弟の横田拓也さんが訴えた。

 横田さんは、めぐみさんについて「家ではおしゃべりで太陽かひまわりのような存在。中学でも人気者だった」と振り返った。1977年、めぐみさんが13歳で拉致された後、家族の会話も途切れ、家族で捜しても手掛かりがなく、いたずら電話もあり、苦しい毎日を過ごしたという。

 横田さんは「この問題はたまたま横田家に起きたが、皆さんにも常に同じリスクがあった」と語り、拉致は広範囲にわたる人権問題だとした上で、全被害者の即時一括帰国を訴えた。

 拉致の可能性を排除できない行方不明者の家族である県出身の3人も登壇した。

 金武川(きんかわ)政司さん(60)=うるま市=は、兄の榮輝さんが那覇市泊港を出発したマグロ漁船に乗ったまま不明になった。遺留品も見つからなかったという。

 濱端俊明さん(54)=同=は、兄・俊和さんが仕事先の福井県で行方不明になった。「人生の半分以上、拉致された可能性がある。もう時間が足りず、一刻も早く救出したい」と悲痛な訴えをした。

 米藏一正さん(68)=那覇市=の一回り年上の兄の武男さんもマグロ船に出たまま戻らなかった。「うちの兄も含めみんなもう年なんです。どうか皆さん力を貸してください」と訴えた。

 また、米藏さんは自身の大学生時代を振り返り、大阪で北朝鮮人から「いい所」があると誘われ大阪南港まで行ったが、怖くなって逃げたという。「今考えると、それが拉致だったかもしれない。一歩間違えれば私も被害者になっていたかもしれない」と話した。

 北朝鮮に拉致された日本人を救う会会長の西岡力・麗澤大学教授は、「日本政府の初期対応がしっかりしていれば問題は長引くことはなかった」と指摘。88年に政府が初めて拉致の可能性を認めても主要メディアが報じず、大騒ぎにならなかったが、「97年に、横田さんの両親が覚悟を決めて家族会(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)を結成して世論に訴えることで、全国民の認識が変わった」と説明した。

 また、2度にわたる米朝首脳会議が開催され、安倍政権が総力挙げて拉致問題に取り組んでいる上、北朝鮮が経済的に追い込まれている今こそ「必ずチャンスは来る」と強調し、国民運動の盛り上がりを期待した。

 横田さんをはじめとする登壇者が揃(そろ)って口にしたのがメディア批判だった。

 横田さんは、「報道各社も拉致疑惑として報道しない苦しい状況だった」と明かした。集いの後、記者団を前に金武川さんは「どれだけ被害を訴えても一度も新聞の1面に載ったことがない」とし、「地元メディアはもっと県民に周知してほしい」と訴えた。米藏さんは、「2年前から県に集いの開催をお願いしたが、ずっとやるやると言って、今日まで時間がかかった」、県当局の対応の遅さを批判した。


菅官房長官あいさつ要旨

被害者全員帰国へ全力で果敢に行動

沖縄で初、拉致問題の「国民の集い」開かれる

主催者あいさつする菅義偉官房長官=3月24日、沖縄県那覇市の沖縄県青年会館

 沖縄初めての開催となるが、拉致問題に対する関心、理解、支援に感謝する。担当大臣として被害者の家族と会い痛切な思いだ。昨年11月、新潟で横田さんが拉致された現場を視察した。胸が張り裂ける思いがした。

 ベトナム・ハノイで開催された米朝首脳会談においてトランプ米大統領が金正恩委員長に対して拉致問題を直接提起をしたことを政府として評価する。引き続き米国をはじめとする国際社会と緊密に連携し、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現するべく、全力で取り組んでまいる決意だ。

 同時に日本自身の主体的な取り組みも進めている。安倍晋三首相を中心にありとあらゆるチャンスを逃さず、全力で果敢に行動していく。首相も直接、金委員長と会談すると何度も述べている。不幸な過去を清算し、北朝鮮との国交正常化を目指す決意に変わりない。今が正念場で、すべての被害者の一日も早い帰国に向けて全力で果敢に行動することを表明する。