厳しい台湾海峡の安保情勢 沖縄と台湾は平和守る最前線

呂秀蓮・台湾元副総統に聞く

 沖縄を初訪問した台湾の呂秀蓮元副総統はこのほど、世界日報のインタビューに応じ、沖縄と台湾の親密な交流が、両岸関係や東アジアの平和と発展に寄与するとの考えを示した。(聞き手・豊田 剛)

平和祈念する金門島視察を/媽祖廟を建立し文化交流深化へ

厳しい台湾海峡の安保情勢 沖縄と台湾は平和守る最前線

呂秀蓮・台湾元副総統

 ――初めての沖縄訪問ではまず、糸満市摩文仁の平和祈念公園にある台湾人戦没者慰霊塔を訪れた。

 地上戦を経験した沖縄は平和の象徴的な場所として認識している。

 第2次世界大戦で多くの人々が犠牲になった。戦時中、米国は沖縄に砲弾を撃ち込んだが、台湾は沖縄に蓬莱米を持ち込んだ。今回の訪問を通じて、蓬莱(ほうらい)米が結んだ台湾と沖縄の平和的関係を確認できた。

 今から60年前の1958年、中国大陸に近い台湾海峡の金門島で国民党と共産党の戦いがあり、多くの人が犠牲になった。金門島は今では平和を祈る場所となっている。国際社会全体が、台湾海峡の平和に対し心から期待している。

 沖縄と金門島は同じような平和祈念公園がある。平和構築のために必要な歴史の一ページとして大切な場所だ。沖縄県知事や市町村長、議員らにはぜひとも、金門島を視察してほしい。

 戦争に反対し、平和を求める心があり、金門島は沖縄県平和祈念公園と通じるものがある。

 ――沖縄と台湾の今後の関係をどう構築していきたいか。

 沖縄と台湾は旧石器時代の1万年前は大陸でつながっていたと考えられており、人類学者や考古学者らが沖縄と台湾には共通部分があると証明している。一例を挙げると、与那国島に海底遺跡があり、澎湖島にも同じく海底遺跡がある。古くから台湾も沖縄も同じ大陸としてつながっていたことを示している。

 台湾には「媽祖(まそ)」という海の神様が祀(まつ)られている。260年前、久米島沖で琉球王の即位を承認する冊封使の乗った船が遭難した際、久米島の村人らによって助けられたのは海の神様である媽祖のおかげと考えられ、媽祖廟が建立された。台湾人は海の神様に対する信仰が強い。

 こうした慈悲や平和のシンボルとして媽祖廟を沖縄に建立したいと考えている。そうすることで台湾と沖縄の文化交流、観光が今以上に盛んになるだろう。

厳しい台湾海峡の安保情勢 沖縄と台湾は平和守る最前線

台湾人戦没者慰霊碑前で記念撮影をする呂秀蓮氏(中央)ら=6日、沖縄県糸満市の平和祈念公園

 ――現在の東アジアの安保環境をどう分析するか。

 ここ数年間、東アジアの情勢は不安定で、中国と米国は戦争を始める可能性がある。一昨年は北朝鮮の核開発問題が最大の懸念だったが、今は台湾海峡情勢が最も厳しい。中国が台湾に合併を迫る恐れがある。中国が台湾を攻め込むと、沖縄にも影響を与えることは避けられない。

 強国である中国と米国の間にある島嶼(とうしょ)部の台湾と沖縄は地政学的に常に最前線にある。だからこそ、沖縄が台湾と一つになって平和を守っていかなければならない。沖縄は戦争を経験しているからこそ、平和に対する思いは強い。

 中国が最も恐れているのは、米国の政治的影響を受けることだ。台湾海峡で何かあれば米軍基地の存在は非常に大きな意味をなす。沖縄県民には、沖縄だけではなく台湾海峡を含めた地域の問題として理解してほしい。

 来年1月は台湾総統選が行われる。この機会に、他国と戦争をしないばかりか、他国を侵略せず、同時に、侵略させないというメッセージを国際社会に発信したい。その前提として、国防の強化は必要で、日本との協力関係は重要だ。そうすれば、周辺国は台湾に悪い影響を与えないようになるだろう。

 ――台湾と中国との両岸関係はどうあるべきか。

 台湾は1996年、住民が総統を選出した。その意味では、独立した国だと思っている。それ以来、4年に1回総統を自分たちで選んでいるが、中国とは対立しないよう努力している。ただ、台湾は絶対に合併されてはならない。独立か統一かという極端な立場に立つのは賢明ではない。


呂秀蓮(ろ・しゅうれん)

 1944年、台湾桃園県生まれ。台湾の政治家。2000年、民進党総統候補の陳水扁氏の指名を受け、副総統候補として出馬。台湾史上初の副総統に就任、2期8年務めた。15年に台湾和平中立大同盟を創設。


=メモ= 蓬莱米

 日本統治時代の台湾において品種改良に成功した米の品種で、現在台湾で多く食べられている。島田叡知事(1945年1月~同年6月)は沖縄戦が始まる直前の1945年2月下旬に台湾へ飛び、900㌧の蓬莱米の確保に成功。翌月に沖縄本島に搬入された。その時、台湾出身日本兵が配給に携わったとされる。