日産とルノー 「対等の関係」で駆け引き本格化

 仏大手自動車メーカー、ルノーは、背任などで逮捕・長期勾留中のゴーン同社会長の辞任に伴い、仏タイヤメーカー、ミシュランのジャンドミニク・スナール氏を会長に選任した。日産自動車はルノーとの「対等な関係」を求めており、同社筆頭株主の仏政府を含む3者の駆け引きが今後本格化することになる。(パリ・安倍雅信)

ゴーン氏不正支出疑惑はルノーでも
日産会長人事と出資比率が焦点

 複数の仏メディアは8日、ルノーと日産の提携15周年を記念した2014年3月の夕食会が、実際にはルノー前会長カルロス・ゴーン被告の誕生会だった疑いがあると報じた。60万ユーロ(約7500万円)ともいわれる費用がオランダにある両社の統括会社から負担されており、適切な支出だったか調査が始まったと報じられた。

カルロス・ゴーン

フランス自動車大手ルノー前会長兼最高経営責任者(CEO)のカルロス・ゴーン被告(左)と妻キャロルさん=2018年5月、仏カンヌ(AFP時事)

 ゴーン被告への会社の不正支出疑惑については、東京地検がブラジルやレバノン、パリのゴーン氏の不動産への支出の調査を進めているが、ルノー側も16年にベルサイユ宮殿で催された同被告の結婚披露宴について、会社の資金が不正に使われていたことを認め、ゴーン氏を訴える方針を示した。

 この件については、ゴーン被告のフランス側弁護士が「ベルサイユ宮殿の会計上のミス」と説明したが、ゴーン被告は8日、披露宴費用のルノーへの全額返還の意思を示したことが伝えられた。昨年11月にゴーン氏が東京地検に身柄を拘束されて以来、ルノー側は社内調査でゴーン氏の不正は見つからなかったとしていたが、事態は一転した。

 ゴーン被告のルノー側での不正行為の表面化で、事態は完全に次の段階に移ったことになる。一方、ルノーでの不正発覚前に同社会長だったゴーン被告辞任を受け、同社はミシュランのスナール最高経営責任者(CEO)を会長に選任した。

 日産の株43・4%を所有するルノーの筆頭株主である仏政府は、ルノー・日産・三菱自動車の連合の要でもあったゴーン氏の空席を見過ごせず、政府主導で人選に関与したともいわれている。

 現在、議決権を握るルノーに対し対等な関係を要求する日産にとっては、ルノー会長人事は極めて重要だ。ルノー側は空席になっている日産の会長職もスナール氏に兼務させたい考えとされるが、事態は不透明だ。

 スナール氏は一貫して財務畑でキャリアを積み、頭角を現した人物。今や財務部門は出世コースの一つといわれ、財務面から経営状況を把握し、業務改善の提案などを行う重要な職務とされる。ゴーン被告の不正を見抜けなかったガバナンスの問題は、日産、ルノー両社にいえることで、スナール氏は組織運営の健全化に貢献すると期待されている。ルメール仏経財相も「ガバナンス強化が最優先」と述べており、同時にスナール氏が仏政府の意向にも十分に応えられる人物と目されている。

 最近、日産とルノーの間で、日産の最高首脳人事や取締役数を規定する通称RAMAと呼ばれる「アライアンス基本合意書」があることが明るみに出た。特に、ルノー側がCEOなどトップ人事の権利を持つことが協定の柱で、この20年間に数回改定された。

 15年の改定で日産側が、仏政府などから経営干渉を受けたと判断した場合、独自の判断でルノー株を買い増せる項目を加えている。だが、この改定時期はゴーン被告が日産トップとして仏政府の干渉から日産を守る意思があった時代のもので、17年に誕生したマクロン政権下では状況が変化している。

 今、日産に逃げられては困る仏政府は、日本政府に対しルノーの日産への出資比率引き下げも含め両社の資本構成を見直すことも可能との意向を伝えたと報じられている。あくまでルノー会長を日産会長と兼務させたい仏政府は、現在のルノーへの15%の出資比率を引き下げる妥協の選択肢もあり得ると伝えたという。

 日産もルノーも連合の維持という方向性は共有しているが、仏政府が言及した経営統合には、日産側が「それを話す時期ではない」(西川広人社長)と述べ、慎重な姿勢を崩していない。日産の求める対等な関係にルノーおよび仏政府がどう歩み寄るかが注目される。