サンゴ礁壊滅の危機救え 養殖の第一人者・金城浩二さん

 日本のサンゴ礁の約9割が沖縄海域に分布しているが、その大半は白化現象が原因で壊滅の危機に瀕(ひん)している。その中でサンゴを救おうと20年間、養殖・移植作業を行っているのが金城浩二氏だ。サンゴの壊滅が自然環境にいかなる影響を与えるのか、一人でも多くの人に気付いてほしいと訴えている。
(那覇支局・豊田 剛)

「政治家は環境保護に関心を」
白化に強いサンゴも誕生

 環境省はこのほど、石垣島と西表島の間にある国内最大級のサンゴ礁「石西礁湖」と西表島周辺海域の全調査地点で、サンゴの白化現象を確認したと発表した。

サンゴ礁壊滅の危機救え、白化に強いサンゴも誕生

陸上養殖を成功させた金城浩二氏

 海水が上昇する前の6~7月時点に調査した。石西礁湖の平均サンゴ白化率は中央部で51%、北部で21%、西表島周辺では16%だった。

 本島周辺でも一部で白化が確認された。調査地点13カ所のうち、7カ所で5~10%の白化が見られ、平均白化率は本島東岸で4%、西岸で5%だった。

 今年は「国際サンゴ礁イニシアチブ」が呼び掛ける「国際サンゴ礁年」。10年ぶり3回目だ。地球温暖化による白化現象や生活排水などで危機にさらされるサンゴ礁を守り、海の生態系を再生させる取り組みが世界各地で行われている。

 死滅の危機に瀕するサンゴを救おうと20年間、ライフワークとしてサンゴ再生に取り組むのは、読谷村にあるサンゴ養殖場「さんご畑」の金城浩二代表だ。

サンゴ礁壊滅の危機救え、白化に強いサンゴも誕生

日本最大のサンゴ養殖施設の「さんご畑」はサンゴ礁の水族館だ

 2004年に「有限会社海の種」を創立。翌年、養殖したサンゴを海に移植して、世界で初めて産卵を成功させたサンゴ養殖の第一人者だ。07年には内閣総理大臣賞と環境大臣奨励賞、人間力大賞を相次いで受賞した。09年には、読谷村の海岸沿いに、10万株、1200種のサンゴと200種類以上の生き物を観察できる観光スポット「さんご畑」を開園。10年公開の映画「てぃだかんかん―海とサンゴと小さな奇跡―」の主人公のモデルにもなっている。

 現在の社会は、「どうやって今、儲(もう)けるか」に価値を置きすぎると苦言を呈する。金城氏が子供の頃、長い歳月かけて木を育てる林業を見て感動した。

 陸上でサンゴを養殖し、一定の強度まで育てた上で沖縄近海に植え付けている。これまで植えたサンゴは14万本を超え、昨年は白化に強いサンゴが誕生した。

サンゴ礁壊滅の危機救え、白化に強いサンゴも誕生

「さんご畑」では数多くのサンゴを見ることができる

 金城氏がサンゴ養殖を始めたきっかけは、1998年、エルニーニョ現象による海水温上昇でサンゴ礁が白化したというニュースを見た時だ。子供の時から海と親しんで育った同氏にとっては「地球が終わるかのようなイメージだった」という。それ以来、サンゴ礁を取り巻く環境は厳しさを増している。

 金城氏は、「子供の頃にあったサンゴ礁が100だとすれば、今は10しか残っていない。90%が死滅している」と説明する。金城氏がサンゴを植える活動を始めた20年前、当時は沖縄本島のあちこちで埋め立てが進められており、理解する者はいなかった。「何でそんなことをするのか」「行政の仕事だからお前がやっても無駄だ」など、心ない言葉を受けた。「自分自身と世間の危機感のギャップに気付き、大きな物を失った気持ちだった」と話す。

 政治にも翻弄(ほんろう)され続けている。サンゴ養殖の活動が世間に知られるようになるや、環境活動家が近寄ってきたが、政治目的の運動に賛同していないことが分かると接触してこなくなったという。「政治家のほとんどは口先ばかりで実行せず、責任をたらい回しする人が多いのを目の当たりにしてきた」という。

 一方で、サンゴ移植について同調してくれたのは沖縄県民ではなく、在沖米軍の軍人軍属だったという。「寄付を集めて持参してくれたり、協力してくれた」ことで、やる気が湧いた。

 「政治家にはもっと気候変動について取り組んでほしい」と注文する。7月の西日本豪雨に象徴されるように、近年は自然災害が多い。「災害による被害から国民を守るためには環境を守るのが一番だ」というのが金城氏の確信だ。

 防波堤の役割や水産資源の提供などの役割を果たすサンゴ礁が死滅すれば、自然災害がさらに増えるだけでなく、近海に魚がいなくなる。そうなれば、日本人の食文化までもが危うくなる。海の資源や価値を考えれば、海は壊されてはいけないのだ。

 「将来、サンゴ礁が残った場合、ぼく(の活動)が理由の一つにはなりたいと思っている」

 こう強調する金城氏は、世論の関心が低いことを懸念する。翁長雄志知事の急死で県知事選が9月30日に投開票される。知事選では、「従来のような基地に賛成か反対かの2択ではなく、新しい沖縄のビジョンが示されたらいい」と金城氏は期待を示す。