翁長雄志氏死去 沖縄県知事選来月30日投開票

革新側は候補者選び難航、「オール沖縄」亀裂認める

 沖縄県の翁長雄志知事が8日死去したことを受け、知事選が9月30日に投開票されることが決まった。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設撤回の判断は次期知事に委(ゆだ)ねられる情勢で、翁長氏の後継に大きな負担がのしかかる。革新側がポスト翁長選びで難航する一方、政府や自民党沖縄県連は「弔い合戦」のムードが高まることに警戒している。(那覇支局・豊田 剛)

自民は「弔い合戦」を警戒

翁長雄志氏死去 沖縄県知事選来月30日投開票

翁長氏の遺影が掲げられた通夜会場の入り口=10日夜、沖縄県那覇市の大典寺

 沖縄県知事が任期途中で死去するのは初めてのことだ。翁長氏の死去から3日後の11日、翁長氏の支持者らの動揺が収まらない中、辺野古移設阻止を目的とした「県民大会」が那覇市で開かれた。

 大会の正式名称は、「土砂投入を許さない!ジュゴン・サンゴを守り、辺野古新基地建設断念を求める8・11県民大会」だが、「土砂投入を許さない」や「ジュゴン・サンゴを守る」というメッセージはほとんどなく、翁長知事の追悼集会としての性格が強く、辺野古移設反対の翁長氏の遺志を継ぐことが確認された。

 冒頭、死去した翁長氏に黙祷(もくとう)がささげられた。続いて、当初の予定になかった那覇市議で次男の翁長雄治(たけはる)氏が登壇した。雄治氏は「父に、翁長雄志に“辺野古新基地建設”が止められたと報告できるように頑張りましょう」と呼び掛け、当日着用する予定だったという青色の帽子を最前列中央の空席に置いた。そこは本来、翁長氏が座る予定だった席だ。

 記者スペースのすぐ後ろには「翁長知事の尊い命 日本政府が奪った」という大きな横断幕が掲げられたのが目に付いた。反基地シンボルだった翁長氏を神格化しようという意図が見え隠れする。

 大会では、知事選への直接の言及はなかったものの、知事選に向けて、革新勢力の再結束を確認する大会となった。5月に膵臓(すいぞう)がんの診断を受けた後も、「オール沖縄」革新勢力は翁長氏の再選に向けて準備していたが、辺野古水域の埋め立て承認の撤回の手法などをめぐり、「オール沖縄」が空中分解状態にあった。

翁長雄志氏死去 沖縄県知事選来月30日投開票

「県民大会」で翁長知事がかぶるはずだった帽子を見詰める謝花喜一郎副知事(前列左)。その右は城間幹子那覇市長=11日、沖縄県那覇市の奥武山陸上競技場

 翁長氏は7月下旬、埋め立ての承認撤回の方針を決めたのを最後に、病状が急激に悪化した。謝花喜一郎副知事には「よろしく頼む」と述べているが、副知事に撤回を託したわけではない。また、病状が悪化し、「自らが意思決定できない状況になったならば、速やかに職務代理を置き、県政運営に万全を期す」ことしか確認していないのが実情だ。

 革新陣営の次期知事候補の選定が急がれているが、大会で登壇した那覇市の城間幹子市長は、「承認撤回に向けてあと一息。無念でならなかったと思う。その遺志を引き継いでいきたい」と、翁長氏の後継を自認するような発言をした。

 城間氏は翁長氏の後継者として4年前の那覇市長選で当選した数少ない「翁長チルドレン」の一人。革新サイドの知事候補として待望論が急浮上している。10月21日の那覇市長選で2期目に出馬する方向だ。ただ、知事選に出馬すれば、4年前と同じ県知事と那覇市長の同日選となる。ある革新系県議は「セット戦術で勢いをつけられる」とほのかな期待を示した。

 暫定的に知事代理職を務める謝花氏も有力候補だ。謝花氏は、大会の知事代理あいさつで、「知事の思いを深く受け止め、私たちも辺野古に新基地を造らせないという公約実現に向けて全力で取り組み、引き続き毅然(きぜん)として判断していく」と決意を述べた。県職員からたたき上げで副知事になった謝花氏に撤回するだけの覚悟や政治信念はあるかは、不透明だ。

 11日の「県民大会」、13日の告別式が終わっても、追悼ムードは地元メディアによって続いている。保革両陣営ともに、「喪に服している間は決戦の雰囲気がつくりにくい」という。

 県議会与党会派代表者会議をまとめる照屋大河県議(社民)は10日の通夜式で、「政党や労組など、まとまるところはあるが、そうでないところも抱えている」と発言。「オール沖縄」体制に亀裂が生じていることを認め、人選の難しさをにじませた。革新系の知事候補では、城間氏と謝花氏以外では、県選出の参院議員、会社役員らの名前が挙がっている。

 一方、自民党沖縄県連は7月9日、佐喜真淳宜野湾市長の擁立を決定し、本人は7月末に受諾した。14日に正式に出馬表明したが、ホテルでの大々的な出馬会見は自粛した。

 「『弔い選挙』という想定し得る最悪のシナリオになった」と県連幹部は危機感を募らせる。「候補者選びで先行したが、瞬時に追いつかれた」(同)と実感している。選挙戦で翁長知事批判ができなくなり、戦略の練り直しも迫られる。また、保守系では、元日本青年会議所会頭の安里繁信氏はすでに出馬表明と事務所開きを終えている。候補者調整がつかなければ、状況は厳しくなるものとみられる。