翁長雄志沖縄県知事が「最後のカード」を切る
来月17日前に辺野古埋め立て承認「撤回」へ
沖縄県名護市辺野古への米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設をめぐり、県は前知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回に向けた手続きを始めた。撤回は移設阻止に向けた翁長雄志知事の最後のカード。11月の知事選を前に国と県の対立は最終局面を迎える。(那覇支局・豊田 剛)
国と県の対立は最終局面へ
翁長知事は17日、防衛局に対し工事の即時停止を求める文書を送付した。これを受け県は、辺野古代替施設の工事主体である防衛省沖縄防衛局から弁明を聞く「聴聞」の実施を近く通知する。行政手続法では、事前に事業者側の言い分を聞く聴聞手続きを定めているからだ。
県は、埋め立て予定海域の辺野古沿岸部東側で当初想定されていなかったこと、すなわち、軟弱な地盤が存在している可能性が高いにもかかわらず、防衛局が県との協議に応じないことや、希少なサンゴ類の移植などの環境保全策が不十分なまま護岸工事を続けていることなどが留意事項違反に当たると判断した。
「撤回」は、承認後の事情の変化を根拠に、公益上の必要性から許認可などの行政処分を取り消す措置。県は、辺野古沖で進む工事が、埋め立て承認の際に条件となっていた環境保全対策などの留意事項に反したとして撤回に向けて準備を進めてきた。
ではなぜこのタイミングなのか。
国は8月17日にも辺野古沖で土砂投入する方針をすでに県に通知している。昨年3月に「必ず撤回する」と明言した翁長知事は、12月の任期満了までに撤回しなければ、革新陣営から「公約違反」とのそしりを免れない。翁長氏は聴聞を経て撤回を最終判断することになるが、聴聞には通常、少なくとも2週間かかる。埋め立て土砂の投入に間に合わない公算が大きい。
辺野古移設をめぐっては、2013年12月に仲井真弘多(なかいまひろかず)前知事が埋め立てを承認したが、その翌年11月に知事に当選した翁長氏は15年10月、「法的な瑕疵(かし)がある」として取り消した。国は「取り消しは違法」として県を提訴。16年12月の最高裁判決では、翁長氏の判断を「違法」としたことで、県の敗訴が確定。政府は工事を再開していた。
取り消しが違法となった現在、「撤回」は目下、知事が取り得る最後の対抗手段だ。撤回の手続きが取られれば、政府はいったん工事を中止することになる。工事を再開するためには、撤回の効力を失わせる執行停止の申し立てを行う。これで再び、県と国の法廷闘争に突入する。
翁長氏を支える移設反対派は15日から5日間連続で、翁長氏に撤回を迫る目的で県庁前で座り込みデモを行っている。マイクを握った男性は「いったん土砂が投入されれば、後戻りできない」と主張。「翁長知事は一刻も早く埋め立て承認を撤回すべきだ」と訴えた。
県が移設反対派の怒りを買ったのは、辺野古沖の埋め立て予定地に生息する希少サンゴの移植を許可する「特別採補許可」を13日、県が防衛省に与えたためだ。17日には、数人の移設反対派が県庁に押し寄せ、県の判断に抗議した上で謝花副知事に説明を求めたが、面会を認められず、県庁内で座り込む騒ぎがあった。
県内には、反対しても工事を止められないという諦めムードが漂っている。16年には普天間飛行場のある宜野湾市の市長選で革新候補が大敗した。さらに、2月4日の名護市長選で翁長氏と共に移設反対の急先鋒だった稲嶺進氏が敗北。移設反対の手法をめぐり、翁長氏を支える「オール沖縄」に亀裂が生じている。訴訟を連発することによって、県民に“辺野古疲れ”が出てきていることは地元メディアも認めるところだ。
「辺野古移設反対」というワンイシューだけで集まった「オール沖縄」をつなぎとめることができるのは、「翁長氏しかいない」(与党県議)という。県議会与党や翁長氏を支持する経済人らは、任期満了直前とも言えるタイミングで「撤回」を決断する背景には、知事2期目に向けての覚悟があると分析する。「次の『オール沖縄』の知事候補は翁長知事しか考えられない」ということだ。だが、「詳しい病状が分からないから不安がある」ことも確かだろう。
これに関して自民党県連幹部は、「翁長知事が出てきたら手ごわい」と述べつつ「なぜ辺野古だけ駄目で、那覇軍港の浦添沖への移設には賛成なのか、説明責任がある」と強調した。
辺野古埋め立て承認から撤回までの流れ
〔2013年〕
12月27日 仲井真弘多知事が公有水面埋立法に照らして、辺野古埋め立てを承認〔2014年〕
11月16日 辺野古移設反対を主張した翁長雄志知事が誕生〔2015年〕
10月13日 法的瑕疵があるとして、翁長知事が埋立承認取消を沖縄防衛局に通知
11月17日 国が代執行訴訟を福岡高裁那覇支部に提起〔2016年〕
3月4日 国と沖縄県の争った裁判で和解成立、国は辺野古沖の工事を中断
12月20日 埋立承認取消をめぐる最高裁判決で県の敗訴が確定〔2018年〕
3月13日 国を相手に辺野古の岩礁破砕差し止めを求めた訴訟で県が敗訴
7月末 埋め立て承認を撤回(予定)







