沖縄戦慰霊の日、中国の脅威の高まりを訴える李登輝元総統

アジアの緊張緩和語る翁長知事

 沖縄県の翁長雄志知事は慰霊の日の23日、東アジアをめぐる安全保障環境の変化を理由に、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を強調した。一方、沖縄訪問中の台湾の李登輝元総統は、中国の脅威は高まり、不安定要素が増していると対極的な発言をした。(那覇支局・豊田 剛)

米軍基地負担軽減で沖縄に寄り添う姿勢、追悼式典で安倍首相

沖縄戦慰霊の日、アジアの緊張緩和語る翁長知事

「平和宣言」で辺野古移設反対を主張する翁長雄志知事=23日、沖縄県糸満市の沖縄県平和祈念公園

 沖縄戦で亡くなった20万人余りの犠牲者に哀悼の意を捧(ささ)げる目的で開催されているのが沖縄全戦没者追悼式だ。そこで行われた翁長知事の演説「平和宣言」の核心は辺野古移設反対のメッセージだった。

 翁長氏が辺野古移設反対の根拠として挙げたのが、東アジアをめぐる安全保障環境の変化だ。12日の米朝首脳会談で、朝鮮半島の非核化の取り組みや平和体制構築について共同声明が発表され、米政府は米韓合同軍事演習の一部を中止することに踏み切った。

 これを受け、翁長氏は「昨今、東アジアをめぐる安全保障環境は大きく変化しており、緊張緩和に向けた動きが始まっている」と語った。

 その上で翁長氏は、「工事が進められている辺野古新基地建設については、沖縄の基地負担軽減に逆行しているばかりでなく、アジアの緊張緩和の流れにも逆行している」と訴えた。在沖米軍は朝鮮半島有事のためにのみ駐留していると言わんばかりの発言だ。

沖縄戦慰霊の日、アジアの緊張緩和語る翁長知事

中国の脅威について話す李登輝元総統=23日、沖縄県糸満市のサザンビーチホテル

 県議会6月定例会でも、翁長氏は東アジアの安全保障に繰り返し言及している。

 代表質問で史上初の米朝首脳会談の評価を尋ねられると、基地問題を統括する知事公室長が代読でこう述べた。

 「沖縄県としては、非核化に向けた合意文書が合意されたことは東アジアの緊張緩和につながる。在沖米軍基地に関しては、両国の具体的な協議が進み、米軍基地の整理縮小と過重な基地負担の軽減につながることを期待する」

 これに対し、代表質問した山川典二県議(自民)は、「中国は連日、公船が領海水域、戦闘機が航空識別圏に入っている。昨年の第3四半期に、宮古海峡、防空識別圏に侵入したのは23件もあり、小笠原からグアムにかけての第2列島線突破の訓練をしている」と指摘。「北朝鮮情勢が変化した場合はむしろ、38度線が南下して日本の米軍と自衛隊の役割がより大きくなるであろう」と述べ、翁長氏の見解を求めた。

 翁長氏は、「アジア、米国、ロシア、中国がダイナミックに動いている時に、『辺野古が唯一』というのは沖縄県民に寄り添う姿勢ではない」と述べ、中国についての言及を避けた。

沖縄戦慰霊の日、アジアの緊張緩和語る翁長知事

沖縄全戦没者追悼式であいさつする安倍晋三首相=23日、平和祈念公園

 一方、追悼式典であいさつした安倍晋三首相は、沖縄の基地負担軽減に対して「できることはすべて行う」と、沖縄に寄り添う姿勢を示した。東アジアについては、沖縄が「アジアと日本をつなぐゲートウェー」と述べたものの、安全保障環境については言及しなかった。

 これに対して、朝鮮半島情勢には「日本が関与せよ」と主張したのは李登輝元台湾総統だ。22日から25日にかけて沖縄県を訪問した李氏は、「朝鮮半島とアジアの平和は日本の関与なくして実現することはかなり難しい」と述べ、日本が強いリーダーシップを発揮するよう求めた。

 李氏は2回の講演のうち、ほとんどを中国批判に費やした。李氏が総統退任後に沖縄を訪問するのは3回目だが、明確に中国批判をしたのは今回が初めて。

 23日、糸満市のホテルで講演した李氏は、「中国は周辺国と絶えず緊張状態をつくりだし潜在的な軍事衝突の可能性を生み出している」と述べ、中国の軍拡や強硬な海洋進出を批判した。太平洋、南シナ海、インド洋を含めアジア地域で緊張状態をつくり出しており、「覇権主義的な脅威で、アジア最大の不安定要因となっている」と訴えた。また、「台湾も中国の軍事的恫喝(どうかつ)を受けている」などとし、地域の安定に向け「日台は経済や文化のみならず、科学技術分野や軍事面の交流と協力関係の構築が重要」だと強調した。

 翌日に行われた集会でも、中国の「一帯一路」構想は「野心に満ちた覇権主義的な計画」と警戒感を示した。また、東シナ海、南シナ海の軍事衝突の危険性や各国の航行の安全と自由が侵害される問題を例に挙げ、「中国こそアジアの情勢を最も不安定にしている要因だと断言」した。

 24日に斎行された台湾人戦没者慰霊顕彰祭・揮毫(きごう)碑除幕式に出席した李氏は、「(戦争で犠牲になった)先人たちの行いは、私たちが生きる道筋を示唆してくれている。先人たちは命をもって私たちに歴史を指し示してくれている」と涙ぐみながら語った。