辺野古移設反対の「県民投票」、署名運動開始

一枚岩でない革新陣営、旧シールズ琉球メンバー主体

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する翁長雄志知事を後方支援する「『辺野古』県民投票の会」が23日、県民投票の実施に必要な署名集めを始めた。ところが、県民投票をめぐる見解の不一致が原因で、知事支持勢力が分裂状況にある。(那覇支局・豊田 剛)

自民は県民投票についての実効性に疑問

辺野古移設反対の「県民投票」、署名運動開始

県民投票キックオフミーティングの参加者=23日、沖縄県那覇市のかりゆしアーバンリゾートホテル

 移設の賛否を問う県民投票条例の制定には、2カ月間で有権者の50分の1にあたる2万3142人の署名が必要だ。5月1日時点の選挙人名簿登録者数は115万7085人で同会は10分の1に相当する11万5000筆の署名を目標に定めている。

 有効な署名が県に提出されれば、翁長氏は条例案を県議会に提案し、可決されれば制定され、半年以内に県民投票を実施するという流れだ。

 知事選前の県政の山場は9月9日の県内の統一地方選だ。普天間飛行場がある宜野湾市、移設先の名護市、そして、陸上自衛隊誘致が焦点となる石垣市の議会選挙などが集中して実施される。会は「統一地方選前に署名を集める必要がある」と呼び掛けているが、その運動を秋の県知事選にもつなげたい考えがある。

辺野古移設反対の「県民投票」、署名運動開始

県民投票のための署名活動の協力を求める元山仁士郎氏=23日、沖縄県那覇市のかりゆしアーバンリゾートホテル

 会の代表は、安全保障関連法案が国会で採決する前に反対運動を展開した若者グループ「旧SEALDs(シールズ)琉球」の中心メンバーで、一橋大大学院生の元山仁士郎氏が務める。会はシールズ系の若者が主体で運営され、金秀グループ、弁護士、社民党らが中心メンバーとなっている。

 23日夜、那覇市のホテルでキックオフ集会が開かれた。同会顧問を務める金秀グループの呉屋守将会長は、「米軍基地が押し付けられている姿は私たちが求める沖縄の姿とは相いれない」と強調。いかなる結果になろうと、投票結果は「尊重する」と付け加えた。

 副代表を務める新垣勉弁護士は、住民投票の意義として①「市民」の声を県民の声として明確に示す②知事が政治的判断できるよう支援する③県民全体の問題として議論する――と説明した。

 ただ、翁長氏を支える陣営は一枚岩ではない。「オール沖縄会議」から、県民投票についての考えの違いや革新色の強まりへの懸念から、大手企業では金秀グループとかりゆしグループが離脱。両グループを含めた経済界や、社民、共産と距離を置く県政与党関係者は27日、翁長氏を支援する新組織「オナガ雄志知事を支える政治経済懇和会」を結成した。

 与党では、社民党と沖縄社会大衆党は署名活動に協力する方針を決めた。懇話会に参加しているリベラル系会派「おきなわ」は、県知事による埋め立て承認撤回の発議を求めつつも、県民投票に協力する姿勢を示す。共産党と革新系労組は、「知事が埋め立て承認を撤回すべきだ」と主張するなど、県民投票に懐疑的な意見が主流である。各自の自主判断に任せるというスタンスを取る。

 一方、野党は、県民投票についての実効性に疑問を抱く。自民党県連幹部は、「投票結果に拘束力はない」と指摘し、決断できない翁長氏のリーダーシップそのものを疑問視する。公明と維新は、県議会で県民投票をめぐって議論が尽くされておらず、同意できないという立場だ。

 前回の県民投票は1996年、大田昌秀知事の時代、「米軍基地の整理縮小」と「日米地位協定の見直し」の賛否を問うもので、約3万4500筆の署名が集められた。投票では賛成票が約48万票で、投票総数の89%を占めたが、投票率は目標よりも低い59・53%にとどまった。

 事実、この県民投票と、翌97年に行われた海上ヘリ基地建設の賛否を問う名護市民投票で示された「ノー」の意思は、結果に反映されていない。

 当時、県民投票に疑義を唱えた西田健次郎自民党県議は、「県民投票には何の法的拘束力もないだけでなく、平気で“買収行為”が行われる」と指摘。その上で、保守系首長が多い現状から「自治体が事務手続きで協力しなければうまくいかない」と厳しい見方をしている。

 前回の県民投票にも携わり、初日から署名活動に参加したという那覇市の70代の女性は、「『辺野古新基地』はどうせできるのでしょと、あきらめムードの県民が多く、手ごたえは想像以上に厳しかった」と感想を述べた。県民投票の実現までの道のりは険しい。


県民投票までの流れ

 有権者の50分の1の署名を知事に提出(7月下旬)
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 知事が県民投票条例案を県議会に提出
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 県議会が条例案を審議
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 可決すれば県民投票を実施
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 反対多数で、知事が埋め立て承認撤回の判断