尖閣防衛、陸上自衛隊の配備実現へ前進

石垣市長選は保守系・中山義隆氏が3選

 陸上自衛隊の配備が最大の焦点となった石垣市長選が11日、投開票され、保守系現職の中山義隆氏(50)が3選を果たした。中山氏は「安全保障と国防は国の専権事項」とし、自衛隊配備を事実上容認する立場を取り、一歩前進したと言える。ただ、市議会で自民党は半数を得ておらず、配備実現に向けてまだ課題は多い。(那覇支局・豊田 剛)

議会の多数派工作が課題、革新は弱体化顕著に

尖閣防衛、陸上自衛隊の配備実現へ前進

当確が出てガッツポーズする中山義隆氏=11日夜、沖縄県石垣市の選挙事務所

 「尖閣諸島は我が国固有の領土であることを国内外にしっかりアピールする必要がある。市長としてしっかり対応していく」

 当選後の記者会見で中山氏はこう決意を述べた。

 尖閣諸島は石垣市の管轄区だ。中国は軍拡を進め「海洋強国」を目指し、今年に入ってからも、中国の公船の接続水域への侵入、中国機による領空侵犯が繰り返されている。昨年度の航空自衛隊によるスクランブル発進は、過去最多の1168回を記録。そのうち約7割が南西空域だ。

 国防や日米安保の重要性に理解を示す中山氏は、陸上自衛隊の石垣島配備について「国防や安全保障は国の専権事項」という一貫したスタンスで選挙戦に取り組んだ。積極的でない公明党に配慮して受け入れを明言しない作戦を取ったのである。

 自民党本部の協力があったことも勝因の一つだ。自民党は国政選挙並みの応援体制を敷き、二階俊博幹事長ら党役員を含む延べ60人以上の国会議員が石垣入りし、組織を固めた。秋の県知事選に弾みを付けることと自衛隊配備に向けて態勢を整える必要があったからだ。

尖閣防衛、陸上自衛隊の配備実現へ前進

自衛隊配備反対の横断幕やのぼりが掲げられている石垣市平得大俣地区

 防衛省は500~600人規模の地対空・地対艦ミサイル部隊の配備を計画。中山市政の継続を想定し、平成30年度予算案には用地取得費など136億円を計上した。

 ただ、中山氏は2016年、配備候補地の住民への説明がないまま、容認を表明したことから、反対派の住民の反発を招いた。そのことを意識し、記者会見で「反対し、不安を持つ人々と直接話をし、疑問や不安を聞いて、政府や防衛省と協議の場を持ちたい。国境離島である石垣市の宿命なので、政府と連携を深めたい」と語った。

 だが、簡単には受け入れられない事情がある。八重山防衛協会の三木巌会長は「民意は出たのだから、できるだけ早く配備の受け入れを表明してほしい」と話すが、配備予定地には市有地が含まれるため、市議会(定数22)の承認が必要になるからだ。

 今回、市長選と同時に行われた市議選補選では保守と革新が議席を分け合った。その結果、議長を除く自公与党は10議席で半数割れしたままだ。過半数の支持を得るためには公明の協力が不可欠となる。あるいは、9月の市議会改選で自民単独過半数を復活させることが必要だが、情勢は不透明だ。

 「平和の党」を標榜(ひょうぼう)する公明は中山氏との政策協定にこぎつける際、自衛隊の文言は一切排除する代わり、「平和」という言葉を多用した。9月に予定されている「世界平和の鐘」30周年イベントに向け、中国を含む世界各国の大使らを招く予定にしている。これは公明の肝入りの政策だ。「世界平和の鐘」は、戦争の悲惨さと平和の尊さを広く伝える目的で国連加盟国の協力を得て1988年に鋳造され、石垣市民会館前の公園に設置されている。

 政策協定には「緊急、重要課題があるときは両者の間で協議を重ね、ケースバイケースで対処策を講じる」とある。「公明は事実上、容認している」(自民市議)と楽観的な観測もあるが、「緊急と判断しなければやらないとも解せる」との見方も存在する。

 一方、革新陣営は、砂川利勝氏が出馬したことによる保守分裂で生じた大きなチャンスを生かせなかった。翁長雄志知事や革新国会議員多数が石垣入りし、安倍政権批判、自衛隊配備反対を訴えたが、従来通りの代案なき批判に有権者がノーを突き付けた。

 名護市長選で若者層の大半が保守系候補に投票したことへの反省から、宮良選対は極端に若者層を意識した選挙戦を展開した。イメージカラーをピンク色にし、宮良氏自らがディズニー映画のキャラクターに扮(ふん)してSNS発信するなど、若者向けのアピールをしたが、奏功しなかった。現職批判票が、砂川氏と食い合う形となっただけでなく、革新支持層までも一部切り崩された。過去の市長選で、革新候補は11000票余りを確保したが、今回は1万票を割った。それだけに、革新の弱体化が顕著になった。

 これで、翁長氏を支える沖縄県の市長は11人中2人と変わらない。秋に行われる県知事選に向けて態勢の立て直しができるかが問われている。


          開 票 結 果 ( 選 管 確 定 )

  中 山 義 隆  無所属(自民、公明、維新推薦)現           13822票
  宮 良   操  無所属(民進、共産、社民、自由、沖縄社会大衆推薦)新  9526票
  砂 川 利 勝  無所属新                        4872票