翁長県政の目玉プロジェクトが「負の遺産」懸念も

大型MICE建設プロジェクト、経済波及効果見込めず

 2014年11月16日に沖縄県知事に当選した翁長雄志氏は、12月10日に就任してから2年を迎える。基地問題に傾注するあまり、経済面では存在感を発揮できていない。中でも、県は大型施設MICEの土地購入費用に一括交付金を活用することを予定していたが、交付適用の対象外と判断され、県債と一般財源からの捻出を余儀なくされた。公共事業に対する県の甘い認識は、野党から厳しい追及を受けている。(那覇支局・豊田 剛)

リゾート性低い東海岸地域に土地購入、交付金受けられず県債で

「県の認識が甘い」、野党が厳しく追及

翁長県政の目玉プロジェクトが「負の遺産」懸念も

中城マリンタウンのMICE施設建設予定地=23日、与那原町

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)のキャンプ・シュワブ(名護市辺野古)沖への移設の阻止を公約に掲げた翁長氏は国との訴訟(福岡高裁)で敗訴し、最高裁判決を待っている。

 就任半年後の会見で、翁長氏は「基地問題に8~9割を費やし、福祉、子育て、教育、高齢者、経済などの政策に十分に手が回らない」と認めている。これを象徴するのが、翁長県政の目玉プロジェクトとして発表した大型MICE建設問題だ。MICEとは、会議・研修(ミーティング)、企業報奨・研修旅行(インセンティブ)や国際会議(コンファレンス)、展示会(エグジビション)またはイベントの頭文字を合わせ、それらができる施設の総称としたもの。沖縄本島南西部の埋め立て地に建設し、20年の供用開始を目指す。

 県はMICEプロジェクトについてこう説明する。

 「大型MICE施設は、与那原町と西原町にまたがる中城湾港マリンタウン地区内で整備されることから、両町のみならず本島中南部の東海岸における新たな都市機能として地域の活力向上に資することが期待されています。

 また、大型MICE施設周辺には、宿泊施設や複合商業施設等を適切に配置し、MICE利用者の利便性を高めるとともに、MICE開催時以外でも街の賑(にぎ)わいを創出する必要があります」

 宜野湾市や豊見城市など5カ所が候補地に挙げられたが、県は西原町と与那原町にまたがる中城湾港マリンタウン地区を選定。遊休地の14万5000平方メートルの土地を確保した。

 土地代を含んだ総事業費は約600億円。3万平方メートルの展示場には最大3万人が収容できる。これは、宜野湾市にある沖縄コンベンションセンターの4倍の規模で、国内5位の大きさだ。大展示棟の他には、多目的ホール、最大30の会議室、約2000台分の駐車場が整備される。

 県は、21年度までにはMICE開催数千件、参加者数20万人を目指している。県観光文化スポーツ部の前田光幸部長は、沖縄県のMICEの開催実績は県所有の沖縄コンベンションセンターだけしか把握できていないという。民間シンクタンクの調査によると、過去数年、開催件数は500件台で、参加者数は約8万人だ。08年度の700件台をピークに低迷している。

 県は、土地購入費用79億円のうち50億円について、一括交付金の沖縄振興特別推進交付金(ソフト交付金)を充てる計画だった。ところが、内閣府から交付を受けることができず、購入費を県債と一般財源に振り替えざるを得なくなった。マリンタウンは県の特別会計で埋め立て、造成された県有地であり、県の借金返済に交付金は適用できないという理由だ。

 これについて翁長政俊県議(自民党)は県議会9月定例会の一般質問で、「結局、県のいわゆる見通しの甘さによって、一般会計から、さらには、県債を発行してこの事業をやっていかないといけない形に変わっていった」と県の判断ミスを追及。「幾つか案があったと思うが、マリンタウンに持っていったことによって県が借金をせざるを得なくなった。豊崎(豊見城市)は土地公社の土地だから県の借金で買い上げることはなかった」と指摘した。

 又吉清義県議(自民党)は、「そもそも計画に無理がある。県政交代で担当職員は全員入れ替わった」と指摘する。空港や市街地からも離れていることから、「2万人が大移動するのは例がない。どのように移動させるか」という不安も口にした。

 また、新垣新県議(自民党)は「MICEよりも貧困問題に(予算の)ウエートを置くべき。箱物よりもかわいい子供たちに充てるんです」と一般質問で力説した。

 大型MICEを整備するのであればシンガポールの統合リゾートを目指すべきだという意見が観光業界や商工会議所から出ている。ところが、翁長県政はカジノの導入には反対の方針を堅持している。東海岸は西海岸と比べてホテル数が圧倒的に少なく、リゾート性が低いことも懸念材料だ。宿泊、飲食、エンターテインメントなど、十分な経済波及効果は期待できない。

 又吉氏は「MICE施設が将来は幽霊屋敷(負の遺産)になる可能性もある。市町村の予算負担も避けられない」と指摘した。MICEプロジェクトが翁長県政の火種になりかねない。