福岡高裁那覇支部「埋め立ては公益上必要」
辺野古移設訴訟は国が全面勝訴、普天間被害・沖縄の負担軽減
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(宜野湾)市)のキャンプ・シュワブ沖(名護市辺野古(へのこ))移設をめぐり、翁長(おなが)雄志(たけし)知事が辺野古沖の埋め立て承認の撤回に応じないのは違法として国から訴えられていた訴訟で、福岡高裁那覇支部は知事の対応を「違法」と判断した。同飛行場の移設に関して初めて司法判断が下されたが、地域の安全保障や宜野湾市民の安全に関する国の主張が全面的に認められた。これで翁長氏は、反対運動に頼らざるを得ないところまで追い込まれた。(那覇支局・豊田 剛)
翁長氏の頼りは「反対運動」のみ
訴訟は、仲井真弘多(なかいまひろかず)前知事による辺野古沖の埋め立て承認を翁長氏が取り消したことに端を発する。国は取り消しは無効で違法として処分の撤回を求めていたが、翁長氏は従わず、政府と繰り返し行われていた協議も平行線をたどっていた。これに関し司法による判断が初めて下された。
翁長氏は16日夕、県庁で記者会見を開き、開口一番「唖然(あぜん)とした」と述べた。
「今日までの歴史的状況を含めて、なぜ沖縄だけが他の都道府県と異なる形で処理されるのか。一地方自治体の自由・平等・人権・民主主義・民意が一顧だにされないということ。今日、他の都道府県であり得るのか、大変疑問に思う」
従来、政府に対して訴えていた主張が認められなかったことに対して、苦虫を噛(か)み潰(つぶ)したような表情で語った。
「自己決定権」「民意」「独自の歴史」といった従来の翁長氏の主張はことごとく排除され、埋め立て承認の正当性、承認取り消しの違法性に焦点が当てられた。
県は前知事による埋め立て承認には瑕疵(かし)があると訴えていたが、判決では「環境面の不利益を差し引いても、安全保障、普天間飛行場による被害軽減など公益上、必要だ」として埋め立て承認を支持した。
外交・国防政策は「地方公共団体の所管事項ではない」もので、海兵隊の一体的運用の観点からも県外移設はできないという国の判断を尊重するよう求めた。
また、在沖海兵隊の必要性や沖縄の地理的優位性についても踏み込んで言及し、辺野古沖に移設することで「沖縄の負担は軽減される。代替施設建設をやめれば普天間飛行場による被害を継続するしかない」と結論付けた。
国と県の協議による和解が求められたことについて、「その糸口すら見出(みいだ)さない状況にある」もので、県の「不作為は違法」と判断した。
翁長氏は記者会見で、「確定判決には従うのか」という問いに対して「そういうことになる」と肯定したが、「『新辺野古基地』を絶対に造らせないという信念を持ってこれからも頑張っていきたい」と述べ、上訴する意向を示した。
「県民を愚弄(ぐろう)している」「三権分立に禍根を残すものになる」「裁判所は国の追従機関なのか」など、国家権力を批判する言葉を随所にちりばめ、強気の姿勢を見せた。
最高裁で負けた場合の対応として「取り消し以外の手法も幾つか出てこようと思う」と述べ、埋め立て承認の“撤回”や県民投票の可能性にも含みを持たせた。その上で、「県民のより大きい反発と結束がこれから出てくるのではないか」と県民世論の反発の高まりに期待を示した。
仲井真弘多前知事は、「判決文は言い得て妙だ」と判決を高く評価。混乱を招いた翁長氏に対しては「速やかに判決に従った上で、政治的なけじめをつけるべきだ」と述べた。
裁判を傍聴した南西諸島安全保障研究所の奥茂治所長は、「裁判所周辺に集まった大半の人々は法より民意が平和だと勘違いしているようだった」と感じたという。「民意は常に変化するもので、民意がぶつかれば暴力でしか解決できなくなる。それを実践しているのが今の翁長知事だ」と述べ、県に司法判断を尊重するよう求めた。
宜野湾市民訴訟団が会見「留飲下がる思い」
福岡高裁那覇支部の判決を受け、「宜野湾市民の安全な生活を守る会」は16日、県庁で記者会見した。平安座唯雄(へんざただお)団長は「留飲が下がる思いだ。国の勝訴を心から喜んでいる」と述べた。
平安座団長は、普天間飛行場の早期移設を求めた署名に2万筆以上が宜野湾市だけで集まったことについて、「(宜野湾市民)9万7千人は間違いなく、危ない普天間飛行場はどかさないといけないと思っている」と訴えた。
原告代理人の徳永信一弁護士は、「知事は速やかに判決を受け止め、国には工事を進めてほしい。上訴することで、無駄に時間を引き延ばさないよう求めたい」と述べた。その上で、「間違っても判決を『紙切れ』と口にしないことを望む」と翁長知事を牽制(けんせい)した。
同会は、翁長氏が埋め立て承認を取り消したことによって市民の安全安心な暮らしが脅かされるとして、知事を那覇地裁に訴えていたが、原告には訴える資格がないという理由で請求が却下された。原告は同月28日に福岡高裁那覇支部に控訴し受理された。第1回口頭弁論は11月10日に行われる。