沖縄2紙の広告収入を直撃、ネットで葬儀情報「お悔み情報局」が台頭
沖縄県では、新聞は訃報欄を大きく設けており、訃報広告は新聞の貴重な収入源となっている。ところが、2014年にはネット上で葬儀情報を提供するサービスが始まり、状況は大きく変わった。ネットでは安価で、しかも、迅速に情報を集められるという利点が奏功し、急速に広がっている。(那覇支局・豊田 剛)
新聞での訃報告知50%切る
安価で迅速な提供が魅力
「訃報欄を見るために新聞を購読している」
県の新聞シェアの9割以上を占める琉球新報と沖縄タイムス2紙を購読している理由として、多くの人がそう説明する。
沖縄には冠婚葬祭の付き合いを大切にする文化がある。告別式には遺族と面識がないぐらい縁遠い人も参列する。そのため、著名人でなくとも新聞に訃報広告を載せることが一般的だ。
新聞広告には故人および喪主の氏名と葬儀の日時が載る。さらには、同居する家族名、独立した子や孫、配偶者、親戚の名前、故人が所属していた団体・企業の代表者や役員、友人らが名を連ねる。
しかし、両紙に訃報広告を掲載することによる遺族の負担は大きい。広告を出した場合、葬儀費用の約2割の負担になる。
こうした中、「沖縄お悔み情報局」は一般社団法人の形で2014年4月に開設。沖縄限定で故人の葬儀・法要情報をインターネット・メールを介して伝えるサービスを始めた。
事前に情報を登録すれば、告別式情報として無料で掲載されるようになっている。また、故人登録をすれば、七七日忌(四十九日)法要や年忌法要などのお知らせメールが届く。地域、団体名、企業名でも登録可能だ。
故人の写真や詳細な葬儀告知や法要告知は有料だが、新聞と比べればかなり手頃な価格だ。故人の写真のスライドショー掲載も有料で提供して、故人との思い出を共有することができる。
利用者にとっては人名、日にち、エリアなどの検索機能も充実している。
上原学代表は、サービスを開始した最大の理由は、喪主の葬儀費用の負担軽減だという。県内の葬儀費用は平均93万円で、そのうち約2割が広告費と負担が大きい。告知したいが広告を出す余裕がないという遺族らの要望を受けた。
もう一つは、島嶼(とうしょ)間の情報格差の是正だ。離島の情報を求めている県民は多いにもかかわらず、2紙の訃報欄は沖縄本島に限定されている。「県民に寄り添っていない」との指摘があることを受け、石垣島と宮古島の新聞と提携して、離島地域でもサービスを提供する。
反応は上々だ。現在のサイトの閲覧数は1日5万件で、月間150万件に達する。開設時の月間9000件から飛躍的に伸びた。沖縄県の約140万人の人口を考えるとかなりのアクセス数で、県民に親しまれていることが分かる。
宜野湾市在住の80代の男性は、お悔み情報局について家族から紹介され、携帯型タブレットで利用を始めたという。「1、2回画面に触るだけでお葬式の日程を見ることができて非常に助かる」と話す。
お悔み情報局が台頭した影響で、訃報を新聞で告知する喪主の割合は56%(14年当時)から50%を切るまで下がった。そのうち、2紙に告知する喪主は53%程度だ。
2紙のお悔やみ広告の営業に対する批判は絶えない。「琉球新報のみに広告を依頼すると、担当者が『沖縄タイムスにも載せれば値引きする』と言って営業する。実質的に競合紙の営業を代行している」と琉球新報の元販売店員は証言する。また、以前は新聞掲載を希望しない故人には最大50%のダンピングをして勧誘していたが、かなりの収入減により、両紙の取り決めで最大10%までの値引きにしたという。
「もう一つにも載せていいでしょうか」と言われて、軽い気持ちで口約束すると、2紙から請求が送られてきて驚いたというケースが後を絶たない。
2紙はお悔やみ広告の減少だけでなく、部数減少に直面している。お悔やみ情報のサービスが始まった最初の1カ月だけで数千部も減少したという。
中でも、琉球新報は販売店が「押し紙」を押し付けている問題で、複数の訴訟を抱える事態に至っている。
県内大手シネマコンプレックスは4月1日から、琉球新報への映画広告を取りやめた。葬儀広告と映画広告の減少による収入減。さらには、「押し紙」訴訟で苦しい立場に立たされている。







