「日台は運命共同体」 李登輝元総統が石垣市で講演

IoT技術協力で関係発展

 台湾の李登輝元総統(93)は7月31日、沖縄県石垣市を訪れ、「地方から発信する日台交流の深化―石垣島の歴史発展から提言する日台交流モデル」と題して講演した。全国青年市長会の関係者や一般の入場者ら約500人が参加した。日台関係を発展させるには、人工知能やあらゆるモノをインターネットで結ぶ「IoT」と呼ばれる技術で協力することが必要だと強調した。(那覇支局・豊田 剛)

石垣島での歴史的交流をモデルに

「日台は運命共同体」 IoT技術協力で関係発展

講演する李登輝元総統=7月31日、沖縄県石垣市のホテル

 李登輝氏の訪日は2000年の総統退任後、8回目で1年ぶり。今回は、全国青年市長会(会長・吉田信解埼玉県本庄市長)が要請し、訪日が実現した。主催者によると、当初は東京近辺が予定地に挙げられていたが、体調面を考慮して台湾から近く、関係が深い石垣市が選ばれた。沖縄県内は2008年に宜野湾市で講演して以来、2度目。

 李氏は講演の前日、市内の名蔵ダムを訪問し、パイナップル産業の発展に貢献した台湾からの移民を記念する「台湾農業者入植顕頌(けんしょう)碑」を見学した。

 顕頌碑は、戦前、八重山にパイン産業と水牛耕作を持ち込み、農業に多大な貢献をしてきた台湾農業者の功績をたたえるため、2012年に建立された。李氏は「顕頌碑は双方の融和の象徴だ」と語り、友好の証しとして歴史を伝える役割に期待を寄せた。

「日台は運命共同体」 IoT技術協力で関係発展

石垣市名蔵ダムにある台湾農業者入植顕頌碑

 講演会で李氏は、日本統治時代の台湾から石垣島に移ってきた農民が、水牛を使った開墾やパイナップル栽培、缶詰製造を導入して農業を発展させたと紹介。IoT技術で日本が最先端の研究開発を、台湾が半導体の量産を担うことで「(IoTでの)世界市場制覇も夢ではない」と話した。「アジアで最も民主化が進み、人権や平和を重んじる日台は運命共同体だ」と強調した。

 主催者あいさつで吉田氏は、「台湾で蔡英文総統が就任した。自由、民主主義、平和を脅かす中国の理不尽な行動には断固とした態度で臨んでいる」と指摘。李氏については「日本人よりも日本人らしく、先人たちが築いた歴史に誇りを持っている」と述べた。また、台湾人が親日なのは同氏のおかげだと強調した。

 石垣市の中山義隆市長は、「八重山は古くから台湾との交流が盛ん。物流を通して一つの経済圏を形成した」と述べた。

 また、台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表が来賓あいさつした。

 後援した八重山経済人会議の幹部は、「今後、いつ日本で李登輝先生の講演を聞くことができるか分からないので、実現できて良かった。しかも、台湾と石垣市の交流が盛んになることは、地域の安全と発展のためにも極めて重要だ」と述べた。

 中山氏は本紙の取材に対して「李登輝元総統は石垣島の歴史を熟知しており、入植者にとって意義深いものとなった」と述べた上で、「石垣島のインバウンド客のほとんどが台湾の人。李氏が訪問したことで、石垣に対する認識が高まる」と今後の両島の交流の深化に期待を示した。

 李氏はこのほか、石垣牛についてJA関係者らと意見交換会、台湾華僑による歓迎晩餐(ばんさん)会に出席。川平湾の真珠加工施設も見学した。

 この間、翁長雄志知事をはじめ県の幹部は一人も参加しなかった。


李登輝元総統の講演要旨

 台湾と石垣島は日本統治下時代から続く交易で、台湾人がパイナップル栽培・加工技術、水牛を使った農法を導入した。

 今や石垣島を代表する果物になったパイナップルは、台湾からやって来た人たちがマラリアと闘い、地元との融和を図りながら根付かせたもの。台湾からやって来た人々は苦労を重ね、今日の発展につなげた。石垣の人たちが台湾人と融和し、共存共栄していることに感謝したい。

 日台関係を深化させる方策が見えてくる。これまでの農業分野から、情報、高齢化社会の分野で協調できる。インターネットを利用するだけでなく、あらゆる製品に埋め込まれたセンサーがネットでつながる新しい仕組み。日常生活を一変させる科学技術のことはIoTと呼ばれる。第4次産業革命となり、世界の技術を確変する。農業でもIoTが活用されている。

 今後、日本がIoTを基軸とした経済政策を打ち出すには、台湾との協力は不可欠となる。台湾からの移民が石垣島の農業に寄与したのと同様に、手と手を取り合って協力する形が生まれる。日本企業の研究開発力と台湾の生産技術が力を合わせれば、世界市場を制覇することも夢ではない。

 日本と台湾はアジアで最も自由と民主化が進んだ国・地域だ。海洋国家で利害が一致することが多い運命共同体だ。政治的な国交はないものの、経済面や文化面では密接な関係を維持し続けている。石垣島の例は、日台間協力関係を築く上でモデルになる。