沖縄戦から71年、沖縄県平和祈念公園に「台湾の塔」が完成
日本と共に戦った証しに、「やっと仲間を祀れる」台湾出身兵
沖縄戦の追悼施設である沖縄県平和祈念公園(同県糸満市)に25日、台湾出身者の戦没者を祀(まつ)る「台湾の塔」が完成した。平和祈念公園には各都道府県などの慰霊塔に加え、韓国人慰霊塔もあるが、台湾人慰霊塔はこれまでなかった。沖縄戦が終結してから71年。台湾人も日本と共に戦ったことの証しになるとして、関係者は喜んでいる。(那覇支局・豊田 剛)
遺族や台湾立法委員2人が除幕式に参列、日台連携の重要性強調
先の大戦では、20万人余の台湾出身者が日本軍の軍属として加わった。そのうち、約3万人が犠牲になり、約1万5千人が行方不明とされている。平和祈念公園の戦没者刻銘碑「平和の礎」には沖縄戦の戦没者として34人の台湾出身者の名前が刻まれている。実際はもっと多くいるとされるが、調査が思うように進んでいないのが現状だ。
「慰霊の日」の2日後の25日午後、糸満市摩文仁の平和祈念公園の高台にある「台湾の塔」の除幕式と第4回台湾出身戦没者慰霊祭が催され、遺族や台湾立法委員(国会議員に相当)、関係者ら約60人が参加。塔の完成を祝うとともに、台湾出身者の御霊に哀悼の意をささげた。
台湾の塔は高さ4㍍で、台湾の地図が描かれている。台座には「総統・蔡英文」の揮毫(きごう)がある。今年1月の台湾総統選で国民党から民進党に政権交代したことで建立が加速、「政府の事実上のお墨付きとなった」と関係者は喜ぶ。
塔建立の発起人で日台平和基金会の許光輝理事長は、「国民党政権はなかなか理解してくれなかった」と振り返る。2012年6月に有志が集まり沖縄県議会に「台湾人戦没者慰霊の塔」建立に関する陳情書を提出。その結果、同年10月に全会一致で承認された。
ところが、沖縄県当局は台湾政府または地方自治体など台湾の公的団体の申請がなければ、用地提供は困難であるとの立場を取っていた。こうした中、航空作戦の遺族らで構成される沖縄翼友会(玉那覇徹次会長)が昨年11月、塔建立の趣旨を理解し、同会が管理する「空華の塔」の敷地内に用地提供した。
志願兵としてシンガポールに配属され、仕事で沖縄と関わりを持つ楊馥成さんは「塔の完成をずっと待っていた。ようやく仲間を祀ることができてうれしい」と話した。
慰霊祭には、学生団体らが立法院(国会)を占拠した「ひまわり学生運動」の流れをくむ新政党「時代力量」所属の立法委員、林昶佐氏と高潞以用氏が参列した。
林委員は、「全世界が第2次世界大戦など戦争が繰り返された歴史を認識しなければいけない」とし、台湾の若者に真実を知ってもらいたいと強調した。
台湾の最大原住民であるアミ族出身の高潞委員は、「塔ができることによって全世界に台湾を知らせることができる。大戦の事実を世界に伝えられることはうれしい」と述べた。その上で「日本と台湾は運命共同体。70年来、台湾と日本の意思疎通は絶えることがない」と日台連携の重要性を強調した。
台北駐日経済文化代表処那覇分処の蘇啓誠処長は祝賀のあいさつで「塔が完成したことで御霊が喜ぶ」と語った。
親族が日本軍の一員として戦ったという、台湾の人気アナウンサーでジャーナリストの鄭弘儀さんも参列。「台湾人の慰霊碑を建立しなければ先人たちの霊を治めることができず悲しいと思っていた。平和祈念公園で全世界、台湾の子孫、沖縄県民に、台湾が大東亜戦争に参戦したことを知らせることができる」と塔の建立を喜んだ。中国の覇権主義を警戒する鄭さんは、「昔も今も今後も日台は協力すべきだ」と述べた上で、「日本は米国と同じような(事実上の軍事同盟である)台湾関係法を制定してほしい」と訴えた。
「韓国人慰霊塔が1975年、平和祈念公園に建立されているのに、台湾の慰霊塔がないのはおかしい」という思いで、台湾の塔の実現のために5年間、台湾と沖縄の関係各所を行き来した許理事長は除幕式を終え、胸をなで下ろした。今後、塔の周辺整備を行った上で、8月15日の終戦記念日には日台の若者による友好コンサートを沖縄で開催することを希望している。
「台湾の塔」に刻まれている碑文
台湾之塔は、先の大戦に台湾から参戦し散華された軍人軍属などの御霊を慰霊・顕彰する碑であります。本来在るべき摩文仁の丘に戦後70年もの間、建てられずにいた事に心を痛めた日台両地の有志の浄財を集めることにより建立されたものです。
当時台湾から勇んで参戦した20万余の軍属軍人の内、約3万柱の戦没者と1万5千余人の行方不明者は、共に我々の同胞でした。時代が変わろうと、人が自らの命を犠牲にして他者を救わんとした行為は、民族や国家の如何を問わず、人道の範として称され語り継がれなければなりません。
建立地となったこの土地は、「戦時中の御恩返しの一端となり日本と台湾の交流・日台親善の懸橋ともなれば是に過ぎるものはない」として、沖縄翼友会より提供されました。このように日台間の恩義により結ばれる絆が、アジアと世界の人々の希望と成らんことを願ってやみません。
此処に台湾之塔の建立をもって御霊の安らかんことを願い、この塔を訪れる全ての人々が先人の恩義に優る交流を心掛けられる事を祈念致します。