辺野古訴訟で国と沖縄県が和解

今月協議開始も大きな隔たり 国は県側の変化を期待

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の米軍キャンプシュワブ(同名護市辺野古)沖への移設をめぐって翁長雄志知事が埋め立て承認を取り消したことが原因で係争中の国と沖縄県は和解案に合意し、話し合いによる解決を目指すことになった。和解条項では、判決が確定するまでの間、国と県は「円満解決」に向けた協議を行うとしているが、すでに次の裁判を見据えて国と県は動き始めている。(那覇支局・豊田 剛)

「判決には従う」が強硬姿勢を堅持 翁長知事、県議会で答弁

辺野古訴訟で国と沖縄県が和解

県議会で答弁を調整する翁長雄志知事(左)と県幹部ら=8日、沖縄県議会

 辺野古移設をめぐって三つの裁判で争っていた国と県は4日、「政府と沖縄県はそれぞれ提起した訴訟を取り下げる」という福岡高裁那覇支部の和解条項に従うことを決めた。さらに県は9日、「和解によって訴える利益がない」という理由で、那覇地裁で審理していた三つ目の裁判「抗告訴訟」も取り下げた。三つの訴訟は事実上、一本化した。

 和解を受け、国は代執行訴訟を取り下げ、工事を中断する代わりに、地方自治法に基づき「是正指示」をし、法的な争いを仕切り直す。是正指示は代執行手続きよりも強制力が低い。

 和解は国が県に譲歩したようにも見えるが、翁長知事が違法行為をしているとの国の判断に変わりはない。国として辺野古移設を譲るつもりはない。強硬な態度に終始しても県側の姿勢変化は困難と判断。いったんは和解案を受け入れ、再び争うことを決めたわけだ。

 石井啓一国土交通相は7日、同法に基づき、知事に対し、辺野古の埋め立て承認を取り消した処分を是正するよう指示した。一方、県側は14日、これを不服として第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を申し出た。国と県は、係争委の審査結果に不服であれば高等裁判所に提訴。最終的には最高裁での判決に従う。

 この問題で県議会は8日、2月定例会本会議で翁長氏に報告する場を設け、議員による質問を受けた。

 「今後、政府と協議を行うことになるが、普天間飛行場の固定化は絶対に許されない。議員、県民には普天間の県外移設、5年以内の運用停止を含めた危険性除去の取り組みに理解と協力を賜りたい」

 冒頭、従来の持論を述べた翁長氏は「和解は裁判における県の主張に沿ったものであり、受け入れるべきだと判断した。特に、和解の成立により、辺野古埋め立て工事が停止したことは非常に意義がある」と述べた。

 質疑では和解の意義や判決の受け止め方について質問が集中した。

 照屋守之議員(自民)は、再び裁判となり判決が確定した場合は双方が従うと規定する和解条項に従い、「国が負けたら辺野古移設を断念し、県が負けたら辺野古移設を認めるということか」と問いただした。町田優知事公室長は、「あくまで裁判の判決には従うが、『あらゆる手法を用いて辺野古に新基地はつくらせない』という県の方針に変わりはない」と回答。

 和解が及ぶ範囲について問われた翁長氏は、「裁判所の判決には行政として従うと話したが、承認取り消しに伴う2件の訴訟の和解だ。今後、設計変更などいろいろあるが、法令に従い適正に判断する。今日までの(反対の)姿勢を持ちつつ対処していきたい」と述べ、敗訴しても辺野古移設を反対し続けると強調した。仲村未央議員(社民護憲)への答弁。

 判決に従って「互いに協力して誠実に対応する」という和解条項に反するものとして、自民会派は今後、徹底的に追及する構えだ。また、菅(すが)義偉(よしひで)官房長官は、同日の記者会見で「お互いに和解条項に同意したのだから(裁判所の)決定に誠実に従い、しっかり厳守することになる」と述べた。

 県は今月中に和解に向けて政府との協議を始める。中谷元・防衛相は今月下旬に沖縄県を訪問する方向で検討に入った。昨年夏の集中協議から約半年ぶりの協議の再開となるが、双方の主張の隔たりは大きいままで、一致点や落としどころを見つけるのは容易でない情勢だ。


和解条項(要旨)

1.2つの訴訟において原告(国、県)は取り下げをし、被告(県、国)は取り下げに同意する。
2.沖縄防衛局長は行政不服審査法に基づく審査請求及び執行停止申立てを取り下げ、利害関係人は埋め立て工事を直ちに中止する。
3.国は是正の指示をし、県がこれに不服があれば指示があった日から1週間以内に国地方係争処理委員会への審査申し出を行う。
8.国と県は、是正の指示の取消訴訟判決確定まで普天間飛行場の返還及び埋立事業に関する円満解決に向けた協議を行う。
9.国と県は是正指示の取消訴訟判決確定後は、判決に従いそれに沿った手続を実施するとともに、その後も互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する。

地方自治法第245条の7項

 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。