子供の貧困率、全国平均の1・8倍 “対応遅い”翁長県政に批判
島尻担当相が集中視察
翁長雄志知事は16日、沖縄県議会で所信演説を行い、子供の貧困対策を新たな県政の柱に加えることを確認した。1月4日の年頭あいさつでも「特に子供の貧困への対応は性根を据えて力を尽くしていきたい」とも述べるなど、急務の課題として捉え、ようやく本腰を入れる構えを示した。だが、普天間飛行場(宜野湾市)のキャンプシュワブ(名護市辺野古)沖への整理縮小に反対し、複数の裁判を抱える翁長氏が本気で取り組むことができるのか、県内からは懐疑的な意見が出始めている。(那覇支局・豊田 剛)
施設や大学などで精力的に意見交換/政府も緊急対応
昨年の県の調査によると、県の17歳以下の子供の貧困率は29・9%で、厚生労働省が2013年に調査した全国平均の1・8倍となった。県は2014年、県内8自治体から17歳以下の人口の68%に相当する20万人を調査。平均的な可処分所得(手取り収入)の半分の122万円を下回る世帯で暮らす人の割合を算出した。
また、山形大学の戸室健作准教授の研究によると、沖縄県内の子育て世帯のうち収入が生活保護基準以下の割合は2012年で37・5%、2位の大阪府(21・8%)を大きく引き離していることが分かった。
沖縄の伝統的な助け合いの精神「ゆいまーる」が崩壊していることを示している。
一人親の家庭の場合、貧困率は58・9%。県民所得が低いことや、一人親世帯の割合が全国平均の2倍に上る。専門家からは、家庭崩壊により、親戚や地域社会とのつながりを失い貧困を招いていると分析している。
自民党沖縄県連会長を務める島尻安伊子・沖縄北方担当相は20、21両日、子供の貧困の現状視察のために沖縄を訪問した。
2日間で、母子寡婦支援センター、子供の居場所施設、夜間も営業する保育園、食事提供型の児童センターを次々と視察。さらには、大学生との意見交換、大学関係者と経済界を交えての意見交換なども精力的に行った。貧困の根本的解決を目指しながら、貧困が親世代から子供世代につながる「負のスパイラル」(島尻氏)を断ち切る狙いだ。
政府は昨年末、2016年度の沖縄関係予算の中で、補助率100%の貧困緊急対策事業として10億円を計上することを決めた。全国に比べて特に深刻な県内の子供の貧困の実情を踏まえ、緊急に取り組むべき課題として追加した。支援案として、寄り添い型支援を行う支援員の配置、子供の居場所の確保、親の就労支援の3本を柱とする。
こうした政府の取り組みに呼応する形で、県としても貧困対策に向けて本格的に動きだした。8日には子供の貧困の解消に向け、30億円の基金を設けると発表した。
さらに、県議会2月定例会の初日の16日、県は30億円規模の「沖縄子どもの貧困対策推進基金」を設置する条例を提案した。
基金は、「子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子供が健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会の確保を図るため、子供の貧困対策を推進する」ことを目的とする。主に市町村への補助を通じ、奨学金や学習支援、親の就労支援などへの支出を想定。6年間事業を続け、毎年5億円をめどに取り崩す。
県はまた、経済・労働団体や市民団体等で構成する「沖縄県子どもの貧困解消県民会議(仮称)」を立ち上げ、県民運動として展開し、策定中の「沖縄県子どもの貧困対策推進計画(仮称)」に基づき、切れ目のない総合的な子供の貧困対策を推進する方針だ。
自民党県連は青年部を中心に貧困対策で勉強会を重ねている。また、与党系の県議と市町村議会議員らもこのほど、子供支援のための勉強会を開いた。ある自民党県議は、「補助の対象の議論が進んでおらず、バラマキで終わってしまう可能性がある」と懸念。与党からも「この問題では県任せにできない」(社民党県議)との意見が出ている。
翁長氏は所信演説の中で、「基地問題をはじめ、経済や文化、教育、福祉、保健医療などの課題に積極的に取り組み、選挙公約の95%以上に着手できた」と就任してからの1年間を振り返った。一方で、「“辺野古新基地”建設阻止」を引き続き県政の最重要課題に据えることを確認した。
昨年6月には、記者会見で「基地問題に8~9割を費やして福祉、子育て、教育、高齢者、経済などの政策に十分に手が回らない」と就任半年を振り返った。
ただ、昨年後半から今年にかけて、辺野古移設をめぐる裁判、さらに、宜野湾市長選の候補者支援に明け暮れ、子育て福祉問題に取り組めたかどうかは疑問だ。沖縄市にある子育て支援施設の関係者は、「貧困の実態が明らかになっても、県の動きは鈍かった。どれだけ県に任せていいのか、不安はある」と述べた。
23日から始まった県議会代表質問および一般質問では子供の貧困問題に関する質問が相次いでいる。知事の取り組みに対する本気度が問われることになる。